「給与生活者」という社会階層が明治時代に誕生して、その後定着するようになり、大正時代の中ごろに「サラリーマン」という言葉が当てられ一般化した。それからおよそ100年。長いようで短くもあり、短いようで長くもあるが、それなりの歴史文化があるにもかかわらず、そのことをまとめた書籍は多くはない。
本書「サラリーマン生態100年史 ニッポンの社長、社員、職場」は、顧みられることが少ない、現代史の一部に注目した一冊。サラリーマンに縁の深いテーマを選んで、何が変わったのか、変わっていないのかを、主に雑誌や新聞記事を使って検証している。自宅で過ごす年末年始の休みのお伴として楽しめる。
「サラリーマン生態100年史 ニッポンの社長、社員、職場」(パオロ・マッツァリーノ著)KADOKAWA
過去を知らずに問題の本質は見えない
著者は歴史にこだわりを持っている。その理由は、いま起きている社会現象や社会問題のもともとには必ず過去があるからという。「過去を知らずに今だけをみて考察しても、問題の本質は見えてきません」
だが、ただこだわりを持つだけではいけない。「歴史は捏造されやすいもの」であることを忘れてはならない。とくに、わたしたちに身近な庶民の文化史で美化や捏造が頻繁にみられ、検証されずに定説になってしまうことが多いという。
たとえば、現代の特殊詐欺の頻発に「昔はこんなに詐欺はなかった」と高齢者は嘆く。ところが、著者はこれに「とんでもない事実誤認」と切り捨てる。
「戦前昭和の詐欺被害は現在の10倍もあった。統計という事実に記憶のウソが打ち砕かれます」
「いまは日本の歴史上でもっとも犯罪が少ない時代なのに、一般市民が新聞・テレビ・ネットを通じて犯罪報道に接する機会は、歴史上もっとも多くなった。このギャップのせいで、むかしより犯罪が増えたように錯覚してしまう」
それでは、サラリーマンや一般企業の場合は、その草創期から今まで、どんな変化があり、なんらかの誤解で迷信が生まれてはいないだろうか――。
そうした疑問は好奇心から本書は企画された。明るく笑える話しあり、ブラックなネタあり、はたまた、サラリーマン生活の哀歓の発掘ストーリーもある。