新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、営業がままならない飲食店で仕入れが滞り、販路を閉ざされた農業や漁業の生産者は少なくない。
そんな生産者が活路として見出したのは、産直ルートだ。消費者からも、産地から安価に旬の食材を購入できると好評を博している。両者を取り持ち、全国の名産品販売の支援事業を行っている株式会社産直(福岡市)では、最先端の技術を組み込んだ放送プラットフォームを使い、これまで以上に産地が身近になる、新しいテレビ通販のスタイルを開発。2020年12月18日から、初めてオンエアした。三好正洋社長に聞いた。
テレビ通販にDXをもたらす「産地応援!! フェアー」
プロジェクトは「『全国のおいしいものいただきま~す』産地応援!! フェアー」と名づけられ、全国のテレビ朝日系列12局とMXテレビで放送される。フェアーの期間は2021年1月31日までで、エリアによって放送日が異なる。
産直が、このプロジェクトの通販番組を制作するにあたり活用したのは、次世代放送プラットフォームとされ、「BaaS」(バース)と呼ばれる「Broadband as a Service」。リモート技術とクラウド技術を活用。「5G(第5世代移動通信システム)」の時代に向けて、テレビ業界にデジタルトランスフォーメ―ション(DX)をもたらすとしてソフトバンクが開発した。
BaaSの最大の特徴は、映像制作のプロセスを大幅に短縮できること。撮影現場から映像データをクラウドにアップすると、別の場所からでもクラウド上で編集から配信までのオペレーションが実行できる。
「このBaaSが通販番組の制作サイドに大きなインパクトになった」と、三好正洋社長。というのも、「(農業や漁業など)一次産業のためには、旬のものは旬の時に取り上げたい。しかし、農家が収穫している映像とって持ち帰り編集をして作り上げると、オンエアするときは旬が終わっているか、よくても旬ギリギリの最後のほう。せっかく撮った映像を使った通販ができるのは1年後」といのが実情だからだ。
そこでBaaSの存在を知り、さっそく導入。「実際に映像が極めて短い時間で作れて放送できる番組ができた」といい、この「産地応援!! フェアー」では、各地の産直品を現地と同じ旬のリアルタイムで伝えることが可能になった。
「ウェブならすぐにできるという話になるが、『産地応援』という試みで、わざわざウェブで動画をみつけて買ってくれるお客さんがどれくらいいるか」
と考え、テレビ通販をメインに打ち出した。もちろん、ウェブ 展開もある。
通販番組はコロナ禍の一時しのぎではない
コロナ禍に見舞われた2020年。国内の経済活動の自粛ばかりではなく、海外からのインバウンドも途絶えたこともあり、農産物も水産物も行き場を失った。相場が大幅に下落し、生産現場は深刻な状況に陥っているという。産地でも、コロナ以前に回復するまでには相当な時間がかかると考えられている。
感染状況が小康状態となって始まった「Go To トラベル」キャンペーンで、一部の観光名所では、クーポンを手にした旅行客が名産品を買い漁り、売り切れが続出して、うれしい悲鳴もあがったというが、三好社長は「それだけでは、本当に業者のためにはならない」と、語気を強める。
「Go Toで盛り上がり一時的にはいいかもしれないが、長期的にみてそれでいいのか、ということ。人が来て売れるからいいということでは長くは続かない」
三好社長によると、通常でも暮れに旬を迎える産物が、年が明けるとさっぱりと売れなくなり、持て余すケースも多い。そのことに頭を痛める業者は少なくなく、社長はそうした生産者の支援を志している。
コロナ禍によって販路が先細り、きちんと考えている生産者は一時しのぎではない売り方を考えている。5Gが本格化して通信がさらに進化すると、新しいテレビ通販の世界は素材を編集しながらライブ映像を配信できるようになるという。
そうなるとBaaSを使って、まさに旬の食材を遠隔地の消費者に届けることが可能だ。「いままで知らなかった食材に触れる機会も提供できるはず」と三好社長。コロナ禍の出口が見えない中で、生産者からも大きな期待が寄せられているという。
今回は北海道、青森県、福島県、石川県、沖縄県の食材セット10商品を紹介、今後は全国に拡大する予定だ。