2020年7~9月期の実質GDP(国内総生産)成長率(2次速報)は、前期(4~6月期)と比べて5.3%増、年率換算で22.9%増となり、4四半期ぶりのプラス成長となった。コロナ禍明けが期待される2021年に向けて明るさを呼び込んだ。
しかし、帝国データバンクの調査によると、感染第3波の襲来で先行きが不透明ななか、下振れリスクが懸念され、2021年の景気見通しは3割超が「悪化」を見込んだ。
一方、新年に向けて出そろった金融機関やシンクタンクの「経済見通し」を見ると、ワクチンへの期待や新型コロナウイルスとの「共存」の高まりを理由に、景気回復や経済成長が一段と速まるとの予想もある。専門家の予想も分かれているようだ。
建設や不動産で景気「悪化」見込む
帝国データバンクの調査には、全国1万1363社が回答した(2020年12月14日発表)。2020年の景気動向については、「回復」局面であったと考える企業は3.4%にとどまり、2019年の景気動向(前回調査2019年11月実施)から、0.3ポイント減少し3年連続で1ケタ台となった。
「踊り場」局面とした企業は24.8%で、前年の半数近くまで減少。また、「悪化」局面とした企業は24.8ポイント増の56.0%で、2012年以来8年ぶりの5割台へと上昇した。「分からない」は15.8%だった。
2021年の景気見通しは、「回復」局面を見込む企業は2020年の景気見通し(2019年11月実施)から7.0ポイント増の13.8%。「踊り場」局面は28.7%と20年見通し(32.8%)より減少した。「悪化」局面を見込む企業は32.4%と20年見通し(37.2%)より減少したものの、3割を上回り依然として高水準となっている。
「回復」局面と見込む企業を業界別にみると、「製造」(17.3%)や「運輸・倉庫」(16.6%)が高い。「悪化」局面では「建設」(44.8%)と「不動産」(40.4%)の高水準が目立つ。
景気回復にまずは「コロナ収束」
2021年の景気に悪影響を及ぼす懸念材料についての回答(3つまでの複数回答)は「感染症による影響の拡大」が57.9%で突出して高かった。次いで「雇用(悪化)」(21.0%)や「所得(減少)」(19.2%)のほか「米国経済」(19.0%)やインバウンド需要を大きく左右する「訪日観光客数の減少」(13.3%)、「中国経済」(12.1%)といった、海外経済と関連する項目が続いた。
2019年まで3年連続で5割近くの企業が懸念材料にあげていた「人手不足」は、11.1%と大幅に減少。帝国データバンクでは「新型コロナウイルスによる業務量の減少などの影響を受け、変化が表れていた様子がうかがえる」としている。
景気が回復するために必要な政策を聞いた(複数回答)ところ、「感染症の収束」が58.0%と、「景気に悪影響を及ぼす懸念材料」の回答に呼応して、突出して高かった。次いで、「中小企業向け支援策の拡充」(31.6%)のほか、「個人消費の拡大策」(25.0%)、「雇用対策」(22.5%)、「法人向け減税」(21.1%)、「公共事業費の増額」(20.3%)が2割台で続いた。
2021年は2度「感染爆発」シナリオも......
金融機関やシンクタンクの「2021年の経済見通し」はどうか――。
三井住友信託銀行は調査月報12月号の「2020・2021年度の経済見通し」で、年末に向かって顕著になっている新型コロナウイルスの感染拡大を懸念材料に、「サービス消費の回復を一時停滞させるほか、不確実性の高い状況下で設備投資や雇用・賃金の回復遅延も重石となる」と指摘。実質GDP成長率は、2020年度マイナス5.4%、2021年度は3.4%の回復にとどまると予測した。「経済活動水準が感染拡大前に戻るのは、2022年度後半以降となろう」としている。
欧米ではすでに接種が始まったワクチンは、日本でも12月18日に承認申請がなされ注目が高まっている。リポ―トによると、「新型コロナウイルスのワクチンは2021年度中に主要国での接種が始まるものの、世界的な普及は2022年度以降となり、予測期間中は引き続きウイルスへの警戒が景気回復の重石となり続けることを想定する」としている。
2020年、2021年度の見通しについて、数字に細かな違いはあるものの、アウトラインはほぼ重なる。緊急事態宣言の2020年5月が景気の底で、それ以降、緩やかに持ち直し、2021年も継続していくという判断は他社とも共通している。
ニッセイ基礎研究所経済研究部の斎藤太郎経済調査部長による「2020・2021年度経済見通し」(10月8日の発表)では、2020年度の実質GDP成長率がマイナス5.8%、2021年度は3.6%成長と予想した。「コロナ後の新しい生活様式によって、これまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しい」とみている。
緊急事態宣言の再発動「ある」大和総研VS強気のGS「ない」
大和総研は経済調査部のエコノミストら3人の連名で、11月20日付で「日本経済見通し:2020年11月」を発表。大和総研では、2021年については、新型コロナの感染拡大に関して3つのシナリオを想定。政府の新型コロナ感染症対策分科会による感染4段階をもとにした「メイン」「リスク」「リスク+金融危機」の3つだ。
「リスク」と「リスク+金融危機」は、2021年の前半と後半の2度「ステージIV(爆発)」に発展する感染が発生し、「緊急事態宣言が1か月間発出される」シナリオを描いている。
実質GDP成長率見通しは「リスク」でマイナス0.8%、「リスク+金融危機」ではマイナス7.7%と厳しい。
一方、米ゴールドマン・サックス(GS)は2021年の日本経済について、市場予測を上回るリバウンドを想定している。2020年11月9日付のグローバル投資調査部によるレポートで、実質GDP成長率は、暦年ベースの2020年はマイナス5.3%、2021年は3.3%だが、年度ベースでは、2020年度のマイナス5.3%から2021年度は4.6%と「回復は鮮明なものとなっている」としている。
「菅首相は、感染防止と経済活動の再開の両立を目指しており、経済に大きな負担を強いる緊急事態宣言の再発令は基本的に考えていない」とみている。
GSは11月7日付で2021年以降のグローバル経済見通しをアップデートしており、2021年の実質GDP成長率は世界全体で6.0%と、2020年のマイナス3.9%(見込み)から、市場予測を上回る大幅なリバウンド(反発)を予想している。日本についても「より長い目線で見れば、市場予測を上回る当社の成長率見通しは妥当と考えている」と述べている。
その理由は、
(1)「感染状況と人々のモビリティとの間の相関の顕著な低下」
(2)「サービス等における企業マインドの大幅な改善」
(3)「オンライン・ショッピングの利用増加」
――といったポジティブな兆候が見られることだ。
日本ではマスク着用が励行され、人の行き来するなかでの感染ケースが減少するなど「ウイルスとの共存姿勢の高まり」が、ゴールドマンの積極評価につながっている。日本でも2021年半ば以降、ワクチンが広く流通すると予想。さらに投資についても、企業マインドの改善やデジタル投資の活発化などを材料に「比較的強気な見方を堅持」している。