裏目にでたゼロ金利解除
しかし、この決断は裏目に出た。米国でITバブルが破裂し、日本でも9月以降、株価の下落が続き、景気に変調をきたした。宮沢喜一首相の反対を押し切った「独断」と政府・自民党に批判される。西野さんは「独立」を意識しすぎた、この時の判断ミスが異次元緩和まで行く流れを作ったと見ている。
本書は、その後の政府との連携を重視し、思い切った量の拡張に踏み切った福井俊彦総裁の時代、与野党双方から「緩和不足」を攻め立てられた白川方明総裁の時代と続き、現在の黒田東彦総裁の時代となる。以前から「デフレ脱却」に強い意思を示していた黒田氏に安倍首相が白羽の矢を立てたのだ。
黒田総裁は物価上昇率2%達成をマネタリーベース2倍、2年で達成すると大見えをきったが、7年たっても未達だ。日銀は無制限な国債の買い入れを始めた。また、マイナス金利という新たな地平に足を踏み入れた。
追加緩和を重ねるうちに、金融政策は一般国民には理解できない複雑難解な姿へと変貌している、と書いている。マイナス金利、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)などの奇手が登場した。日本経済は日銀の実験室にされたという専門家もいる。
通して読むと、どの総裁の時代も政治との確執あるいは蜜月があったことがわかる。「独立」を掲げながら、なぜ、いま日銀がこのような状況に追い込まれたのか。著者はあえて論評していないが、読めば明らかである。
「日銀漂流」
西野智彦著
岩波書店
2500円(税別)