日本中に衝撃が走った。東京都の新型コロナウイルスの新規感染者が一気に800人を超えて2020年12月17日、過去最多の822人に達した。全国でも3212人と過去最多になった。これまでの東京都の最多は678人だから、700人台を飛び越し、いきなり800人台に。1000人台が目前に迫った。
菅義偉首相が豪語した「勝負の3週間」の最終日にこの体たらく。菅政権のコロナ対策は完敗だった。改めて「危機感ゼロ」だった菅首相に批判の矛先が向いている。
医療崩壊の東京都、最悪の「警戒レベル4」に
東京都によると、新たな感染者822人を年代別にみると、20代が201人で最多。30代が169人、40代が123人、50代が113人。65歳以上の高齢者は112人で、過去最多となった。「人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO〈エクモ〉)を使用」とする東京都基準の重症者数は66人で、前日よりも3人減った。
しかし、東京都は12月17日、都内の医療提供体制の警戒レベルを、4段階のうち最も深刻な「体制が逼迫している」(レベル4)に引き上げた。感染状況の警戒レベルも4段階のうち最も深刻な「感染が拡大している」を維持している。
12月17日夜、記者会見に応じた東京都の小池百合子知事はこう語った。
「ウイルスはカレンダーを持っておりません。クリスマスであれ、年末であれ、正月であれ、容赦なく襲ってきます。年末年始特別警報を発します。これまで以上に徹底した感染防止を心がけ、みなさんの命を守りましょう」
と呼びかけたのだった。
それにしても「勝負の3週間」のあいだ、菅首相のノー天気ぶりに批判が集まっている。その中でも特に怒りの対象になっているのが、「5人以上の会食を避けて」と自ら要請した張本人である菅義偉首相が、8人が出席する「忘年会」を開いたことだ。
12月14日夜、菅義偉首相は銀座の高級ステーキ店「ひらまさ」で開かれた忘年会に出席した。出席者は、主催者の二階俊博自民党幹事長ほか、林幹雄幹事長代理、元宿仁自民党事務総長、王貞治氏、杉良太郎氏、みのもんた氏、政治評論家の森田実氏の計8人だった。
「5人以上飲食」で「マスク会食」もしない菅首相
8人の平均年齢が77.6歳であることから、12月17日放送のテレビ朝日系情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」で、白鴎大学の岡田晴恵教授はこう皮肉った。
「平均年齢が77.6歳。(GoToトラベルの自粛の時も高齢者は控えてと訴えていたから)忘年会はおやめになられたほうがよかった。国民に自粛をお願いしているとき、非常にまずかった」
とコメントした。
同番組によると、「ひらまさ」の看板メニューは国産黒毛和牛のヒレ肉ステーキで、前菜に肉のタルタルやキャビア、アワビなども供され、シェフのお任せメニューが約3万円から。飲み物やサービス料などと合わせて1人6~7万円が相場だという。
まずいことに、この12月14日は菅首相が「全国一斉の年末年始のGoToトラベル停止」を決定。年末年始の飲食の自粛も訴えて、
「5人以上の飲食では飛沫が飛びやすくなる。多人数の飲食を控え、ぜひマスク会食を。飲食の場での感染対策を徹底するようお願いしたい」
と呼びかけていたのだった。
読売新聞(12月17日付)「首相『5人以上で会食』陳謝」も、こう呆れている。
「出席者によると、(ひらまさでは)向かい合わせにならないよう横並びのカウンター席に座ったが、アクリル板などは設置されておらず、政府が推奨する『マスク会食』もしなかった。コロナ禍の会食をめぐり、政府は飲食店支援事業『GoToイート』については運用を『原則4人以下』の利用を制限するよう全国の知事に要請している」
それなのに、「マスク会食」もせずに王貞治氏の「野球談議」に大いに盛り上がったという。お互いに唾は飛ばなかったのだろうか。高齢者ばかりで大丈夫か。
産経新聞(12月17日付)「首相、多人数の会食陳謝」は別の面での菅首相の言行不一致を、こう指摘する。菅首相はかねてより、GoToトラベルは感染拡大の原因になっていない、むしろ飲食が危険だと強調してきたことだ。
「菅首相は『かねて(専門家から)飲食の場面で感染リスクが高いと指摘されている。加えて、気温の低下が影響するということだ』と注意喚起。さらに『最前線で尽力している医療従事者の支援をしっかり行っていきたい』と語った。国民に長時間・大人数での食事を避けるよう呼び掛けているなか、自身が二階幹事長らと多人数の会食に参加していた」
と糾弾した。
菅首相は12月16日、記者団にこう陳謝した。
「他の方との距離は十分ありましたが、国民の誤解を招いたという意味においては真摯に反省をいたしております」
と弁解したのだが、その舌の根も乾かぬうちに16日夜、日本料理店とフランス料理店をはしご。地元神奈川県の金融関係者2人と、政治ジャーナリスト田崎史郎氏、読売新聞幹部、日本テレビ役員らマスコミ関係者3人と会食した。外で飲食せずに、首相官邸に呼んで会うことはできなかったのか。
こうしたまったく反省の色がない菅首相に対して、朝日新聞(12月17日付)「首相言動ちぐはぐ 相次ぐ批判・苦言」はリスクコミュニケーションの専門家、吉川肇子・慶応大学教授のこんな批判を紹介している。
「コロナ対策で、政府は国民に自主的な努力を求めてばかりいる。その努力の目安を首相自らが守らない姿勢を示していることになり、国民の信頼をさらに損ねることになるだろう。『GoTo』で旅行を促進しながら3密の回避を呼びかけるなど、同時に達成できない目標が目立つ。そうした政府の一貫性のなさを象徴している」
一貫性のなさは自民党議員たちも同様だ。驚くのは自民党の各派閥の忘年会が12月17日に開かれる予定だったことだ。今回の問題を受け、急きょ中止にしたという。全員参加するつもりだったかは不明だが、二階派が48人、岸田派が47人である。「年末年始、多人数の飲食は控えよう」という呼びかけは何だったのか。
「GoTo停止」に自民観光族「これは政局になる」
菅首相の「言行不一致」は自民党内に、波紋を広げている。一つは12月11日にインターネット番組に出演した際、
「みなさん、こんにちは。ガースーです」
とチャラけた挨拶をしたことだ。
朝日新聞(12月17日付)「『ぶれない』信条頑なにGoTo、医療費...... 軋む政権」が自民党内に「政局」になりかねない「アンチ菅」の動きが起こっていることを伝えている。
「この(ガースー)発言にネット上で『無神経だ』などと批判が集中。首相に近い自民党幹部は『余計なことを言わなくてもいいのに』と漏らし、政権幹部は『首相に情報が入っていないことに注目している人は多い』と、首相の『孤立』ぶりを危ぶむ」
菅首相には政権内に、参謀役・調整役が不在であることが問題だという。安倍晋三前首相は、菅官房長官に支えてもらったが、菅首相には「菅官房長官」がいないというわけだ。
そんななか、GoToトラベルの停止を急きょ独断で決めたことが、自民党内に猛反発を生んだ。朝日新聞がこう続ける。
「トラベル停止表明から一夜あけた12月15日、自民党本部であった国土交通部会では、出席者から『総理の判断でも納得できない』といった不満が噴出した。ざわめく党内に、閣僚経験者は『政治の局面が転換した可能性がある』との見方を示す」
「政治の局面」とは、すなわち「政局」。政界用語では「政局になる」とか「政局にする」という言葉は「権力闘争」とか「倒閣運動」を指すことが多い。かなり生臭い言葉だ。自民党交通部会は観光族のドンで、全国旅行業協会の会長を務める二階俊博幹事長の牙城だ。二階俊博幹事長は、ギリギリまで菅首相の「GoToトラベル停止」を聞かされていなかったといわれているのだ。
ちなみに、菅首相が大ヒンシュクを買った高級ステーキ店での会食は、二階幹事長の主催だった。菅首相は12月16日、日本テレビのインタビューで、こう語っている。
「ご挨拶だけで失礼しようと思ったが、結果的に残って話をした。大いに反省している」
菅首相は二階幹事長によほど頭が上がらないらしい。
(福田和郎)