政府は2020年12月14日夜、新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、12月28日から来年1月11日までの年末年始に、全国一斉に「GoToトラベル」キャンペーンを停止すると発表した。
政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長の諫言にも耳を貸さず、
「経済活動の火は絶対に消さない」
と頑ななまでに「GoToトラベル」継続にこだわってきた菅義偉首相に何があっただろうか――。
「ガースーです」の恥ずかしい薄笑いに猛批判
新型コロナウイルスの感染拡大には、政府の分科会が12月11日、感染状況が高止まりしている地域は「GoToトラベル」の対象から除外することなどを提言していた。しかし、菅首相は同じ12月11日、インターネット動画配信サイト「ニコニコ生放送」に出演。「みなさんこんにちは。ガースーです」などとチャラけた笑顔を見せ、「GoToトラベル」の停止問題については、
「今そこは考えていない。検討もしない」
と、にべもない態度に終始した。
これに対し、ネット上では、
「これ... まじ引いた」
「あれはお笑いのボケなのか。空気が読めない場違いのボケなのか」
「春から命の危険をさらし、働き詰めの医療従事者が聞いたらどう思うか」
などと大ヒンシュクを買っていた。
それもあってか、菅首相は12月14日13時過ぎ、東京・新宿の国立国際医療研究センター病院を視察。担当者から新型コロナウイルスへの対応の説明を受けた後、記者団の取材に応じた。ネット中継での「ガースーです」とニヤけた薄笑いと打って変わった神妙な顔つきで、こう述べたのだった。
「病院で働いている皆さんが自らの危険も省みず、患者のために戦っている姿に感銘を受けました。従業員の皆さんが働いていけるようしっかり支援していきたい。処遇も倍増します」
命がけで頑張る医師、看護師への支援を倍増
その間、西村康稔経済再生担当相が東京都、愛知県、大阪府、北海道などの知事と断続的に打ち合わせを重ねた。こうして迎えた12月14日夜の政府の対策本部。冒頭で菅首相は、こう述べたのだった。
「全国の感染者数は高止まりの傾向が続き、さまざまな指標から見て、感染拡大地域が広がりつつあります。とりわけ、医療機関をはじめとして、最前線で対処する方々の負担が増しています。分科会の提言を踏まえ、年末年始にかけて、これ以上の感染拡大を食い止め、医療機関などの負担を軽減し、皆さんが落ち着いた年明けを迎えることができるよう、最大限の対策を講じることにします」
そして、「GoToトラベル」をめぐっては札幌市と大阪市に加えて、東京都と名古屋市を目的地とする旅行を12月27日まで対象から外し、出発地とする旅行も利用を控えるよう呼びかける考えを示した。
さらに、12月28日から来年1月11日まで、全国一斉に「GoToトラベル」を一時停止する考えを表明したのだった。
また、医療機関への具体的な「待遇倍増」策も示した。新型コロナに対応する医療機関や派遣される医師、看護師への支援などを倍増し、医師は1時間1万5000円、看護師は1時間5500円を補助するほか、看護師が本来の業務に専念できるよう、清掃などの業務の民間事業者への委託を促し、その経費を支援するとした。
初めて「不支持」が「支持」を上回った世論調査
それにしても、菅首相は「GoToトラベル停止」について、なぜ考えを一転させたのだろうか――。
政治ジャーナリストの田﨑史郎氏は、12月14日放送のテレビ朝日系情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」の中で、
「内閣支持率の大幅な低下にショックを受けたのでしょう」
と説明した。
毎日新聞(インターネット版)が12月12日夜に報じた世論調査結果のことだ。菅内閣の支持率が、前回調査(11月7日)の57%から17ポイント下落して40%に。逆に不支持が13ポイント上がって49%と、不支持が初めて支持を上回った。
菅政権の新型コロナ対策についても、「評価する」が14%(前回34%)で、「評価しない」が62%(前回27%)と、こちらも大逆転となった。新型コロナ対策の評判の悪さが支持率の大幅減につながったわけだ。
田﨑史郎氏は、こう指摘した。
「(ほかのメディアの世論調査でも)1週間前までは支持のほうが多かったのに、毎日新聞の調査で逆転した。官邸の方々は否定するが、かなりショックだったと思います。そこから(GoToトラベル停止へと)流れがガラッと変わってしまいました」
ネットでの猛バッシングと世論調査という、国民の正当な批判がやっと菅首相に届いたということか。
(福田和郎)