社会インフラの一部となりつつあるスーパーアプリ
たとえば、ウィーチャットの中心的機能はメッセージのやりとりだ。日本で言えばLINEに近い。中国のユーザーはこれを仕事にも使うのが特徴だ。仕事のツールとして利用し、仕事で会った人とアカウントIDを交換する。また、グループチャット(3人以上のユーザーが一つの会話をするチャンネル)が大量に立ち上がる。さまざまな社交の場にもなっている。
さらに、決済機能が追加されたことで機能が飛躍的に拡張された。
「金融資産の運用、タクシーの配車、飛行機・新幹線・映画のチケットの予約購入、募金活動、公共料金の支払いまでが可能になる」
「運転免許証、医療保険証、身分証、社会保障証がウィーチャットから表示できるほか、行政手続きの電子化も進んでいる。言うなれば、アーパーアプリはもはや社会インフラの一部となりつつある」
なぜ、新興国でスーパーアプリが普及したか、その理由も詳しく説明している。
本書は最後にコロナ禍に触れ、パンデミックがデジタル化を加速させると見ている。感染リスクを下げる手段としてデジタル技術が活用されたからだ。また、リモートワークにより新たなデジタルサービスも広がった。
伊藤さんはデジタル化が新興国の可能性と脆弱性の両面を増幅する、という見立てから、さまざまな論点を示した。そして、「総論としては、日本は新興国がデジタルによって得られる可能性を拡大し、ともに実現し、同時に脆弱性を補うようなアプローチを取るべきだ」と書いている。
そのためにも新興国のデジタル社会にアンテナを張り、関わっていくことだ、と結んでいる。通読して、日本が「デジタル後進国」であることだけは、はっきりわかった。
ちなみに、本書では日本、アメリカなど先進国36か国が加盟する経済協力開発機構(OECD)諸国以外を「新興国」と呼んでいる。したがって未加盟の中国、インド、南アフリカなどは「新興国」として扱われている。
「デジタル化する新興国」
伊藤亜聖著
中央公論新社
820円(税別)