デジタル化の恩恵は先進国よりも新興国のほうが大きい
ウーバーなどのライドシェアサービスは、第三者であるプラットホーム企業が乗客と運転手の取引を成立させ、同時に取引をモニタリングし、安全性と信用性を提供できる。GPSの信号をもとに最短経路を示し、走行経路も記録する。さらに乗客にサービスへの満足度を尋ねることで、運転手のサービス水準を評価(レーティング)できる。サービスの悪い運転手には新たな乗客が配分されず、徐々に淘汰されていく。
中国のアリババ集団による支付宝(アリペイ)というサービスも買い手と売り手の間に信用が欠けている状況下でも、第三者としてのプラットホーム企業が取引を保証し、またモニタリングすることで、見ず知らずの相手との取引が進む。日本ではフリーマーケットアプリのメルカリで採用されているこの仕組みは、「エスクローサービス」と呼ばれる。
先進国では取引の公正さはある程度担保されているので、安心して利用できるが、中国や東南アジア、アフリカなどの新興国では、不確実性が大きかった。デジタル化によっていままで属性が不明だった取引相手が可視化され、市場全体が見えるようになったのだ。こうしてデジタル化の恩恵は、先進国よりも新興国のほうが大きいと論じている。
本書では、中国の貧困地域である貴州省における遠隔治療、アフリカで広がるモバイル・マネー、南アジアに広がるフリーランス経済、南アフリカのドローンなどを利用した精密農業とスマート漁業、中国のアリババ集団傘下の物流企業の「割り切り」アプローチ(「ラスト・ワンマイル」は顧客に取りに来てもらう)などの例を取り上げている。
また、各国のベンチャー企業と拡大するベンチャー投資についても紙幅を割いている。
こうしたキャッシュレス化やシェアリング・エコノミーの普及では、一部の新興国の方が導入のスピードが速く、先進国を「追い越す」動きも見られる。この動きの中心にあるのが、先進国にも存在してこなかった統合的なスマホアプリ、いわゆる「スーパーアプリ」だという。
典型は中国のテンセント・ホールディングスの微信(ウィーチャット)、アリババ集団の支付宝(アリペイ)、東南アジアのゴジェックやグラブ、インドのPaytm(ペイティーエム)だ。