テレワークが開く改革機運
著者は日本にイタリアのケースがそのまま当てはまるわけではないとしながら、メリトクラシーの定着をしっかり図ることが重要と主張する。日本では今でも能力を重視するというより「年功序列制」が重要な昇進の原則である企業が多く、年長者が会社を仕切ることで企業のIT革命を妨げる可能性があるからだ。
たとえば、広い事務室で50人ぐらいの従業員がモニターをみながら在庫管理をしている現状があるとすると、「会社歴の長い年長者はどうやって彼らが必要でなくなるかを考えるよりも、どうやって彼らが仲良く仕事をできるかを考える」ことがふつうで、IT化が見送られることになる。
「政府の会議などでは、日本の企業はもっとIT化しろ、とか、ソサエティ5.0の実現を目指せ、とか声を大きくするのですが、結局のところ、インセンティブ体系を大きく変えるとか、昇進の基準を大きく変えるとかができなければ、IT化が大きく進むことはないのではないでしょうか」
と著者。
IT化により大きな仕事を実現した人材には大きな報酬を与える。そうした人材が、年功序列の枠を超え重役に列し、会社の基本方針を決める。こうした改革を行う気概があればIT化は加速する。
「新型コロナによって、テレワーク、在宅勤務が増えたのは、この方針を進めるためのチャンス」という。評価の材料が「勤務時間」などではなく「仕事自体」の成果となり、実行した個人のことは問題ではなくなり、メリトクラシーを進めるためには絶好の環境といえるからだ。
「WEAK LINK(ウィークリンク)コロナが明らかにしたグローバル経済の悪夢のような脆さ」
竹森俊平著
日本経済新聞出版
税別1800円