イタリアの惨状
イタリアはEUの中で低迷レベルが著しく、2018年の国民一人当たりのGDP(国内総生産)は2000年の水準を下回って世界を驚かせた。ドイツの場合は2000年の水準を25%も上回った。イタリアは失業問題も深刻で、とくに若手失業率は30%に迫り若者は国外に目を向けている。
本書ではイタリアの最大の問題として、全要素生産性(TFP)が低下していることを指摘。TFPはその国の生産能力や生産技術の改善度合いを示すもので、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアの4か国がいずれも2000年を100として、これまでの推移を比較すると、リーマンショック(2008年)による落ち込みの後、イタリア以外の3か国は2018年に100を大きく超えているのに、イタリアだけが100以下に低迷している。
イタリアの低迷の理由は、1995年ごろから進行しているIT化に乗り遅れたこと。先進各国の成長の原動力の一つに、労働者が能力に応じてインセンティブを得る「メリトクラシー」(能力主義、実力主義、成果主義)があるが、イタリアにはこれが欠如していた。
イタリアでは、コンプライアンスが緩く、メリトクラシ―よりも、たとえば企業ぐるみの脱税の「タレコミ」を避けるため、忠誠心が重んじられる。人事にあたっては、ITリテラシーが高く優秀ということを評価して重職を任せれば、問題情報をリークされる恐れがある。だから、長年の勤務で忠誠心が証明されていることが重視され、このことが巡りめぐって若者の失業率の高さにも反映する。
コロナ禍でさらに進んだイタリアの惨状にドイツが、EU崩壊を食い止める目的で救済案を提出。しかし、イタリアには制度的といえる障害があり、その救済は一時しのぎにすぎない。イタリアにはコロナ禍を機にビジネスルールのコンプライアンス強化にまで改革の域を広げ、メリトクラシーの定着を図るなど、ITリテラシーが評価されるような環境をつくることが求められている。