デジタル格差の原因は教育と所得
デジタル化をめぐる、さまざまな局面での格差の原因は、本書によれば、一つには教育水準の問題であり、もう一つは所得の問題だ。ITの仕組みはある程度の知識がないと使えないし、インターネット環境を整えるためには金が必要だ。
就業の出発点で、教育と所得を持つ人と持たない人とでは、デジタルの背景が異なることになりキャリア・パスを進むほどに大きな違いが生じる。とくに米国のような競争社会では、教育や所得、デジタルの精通レベルが個人のキャリアに及ぼす影響は大きく、その結果、社会分裂が生まれている。
新型コロナが猛威を振るう以前から、欧米の先進国ではポピュリズムの台頭を背景に社会分裂が進行していたが、コロナ危機の到来で社会分裂の問題は一層深刻化。国民間のデジタル・デバイドも同じで、デジタルを活用できる人はロックダウンなどの悪影響を受けることが少なく、比較的安定した生活を送れていたが、活用できない人はロックダウンで身動きがとれなくなり生活の安定を失う憂き目に遭った。
コロナ禍の中で誕生した菅義偉首相の新政権はデジタル化の推進を打ち出しているが、国民の側の教育や所得の問題の解決は容易に進むとは考えられない。政府によるデジタル化の推進は、さまざまなケースのデジタル・デバイドを深刻化させる可能性もある。本書では、デジタル・デバイド深刻化の問題について、イタリアを例に考察を重ねる。イタリアは、テクノロジーを使いこなせていない国として、EU(欧州連合)の中のデジタル・デバイドでの弱者になっている。