日本で投じられる広告費の対象は、2019年にそれまで1位だったテレビを抜いてインターネットがトップになった。巨額を使ってテレビ広告を制作、放映するマスマーケティングは時代にそぐわなくなっている。
インターネットの時代では、パーソナルなコミュニケーションが有効となり、一つの製品をアピールするためには、パッケージデザインの重要性が高まっている。
本書はそうした時代をとらえて、企業がパッケージデザインのレベルをどう向上させ、マーケティング活動に貢献するかという視点でまとめた一冊。商品企画担当者、ブランドマネジャー、デザイナー、経営者を読者として想定し、実際のパッケージや広告を例にとった解説は、パッケージ考現学の入門書として読んでも楽しめる。
「売れるパッケージデザイン 150の鉄則」(小川亮著)日経BP
デジタルシフトやイノベーションを生むデザイン
著者の小川亮さんは、株式会社プラグ社長。同社は6年前にリサーチ会社とデザイン会社が合併してできた会社で、2つのサービスを組み合わせて顧客企業の商品やブランドを向上させることなどを事業としている。
小川さんは大学卒業後キッコーマンに入社。その後、慶應ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得。経営管理学博士でもある。2010年に「図解でわかるパッケージデザインマーケティング」(日本能率協会マネジメントセンター)を出版し、同書は5版を重ねるヒットとなった。
本書は、同書をベースに内容を進化させた。デジタル化でテクノロジーも進化し、10年間で人々の生活は大きく変化した。デジタルシフトやイノベーションを生み出す役割としてのデザインについて、新たにカバーした。
本書は「実践編」、「戦略編」、「知識編」の3部構成。それぞれ4~5章建てで、計150のテーマが掲げられている。各テーマは見開き2ページの読み切りで解説され読みやすい。時間などの関係で落ち着いて通読することが難しいという場合には、テーマを選んで使うこともできる。パッケージについての「初心者」は実践編と知識編を中心に読むことがオススメという。
「大きな変化があったとき」は2つの視点で
知識編の中で掲げているテーマの一つに、「大きな変化があったとき」がある。前著の「図解でわかるパッケージデザインマーケティング」を書いた翌年に東日本大震災が発生。そして本書を執筆している2020年には新型コロナウイルスによる感染拡大という事態に見舞われたことが、このテーマを加えた理由だ。
大震災でも、コロナ禍でも、人々は今までどおりの生活ができなくなり、それは、生活様式や購買行動にも反映される。
「パッケージデザインは人々の日常生活と直結」しており、「その影響がダイレクトに表れる」。人々は安心・安全を最優先し、ロングセラーブランドに回帰する傾向が強くなる。「心理的に新しい商品を探索し、購入しようという気持ちが薄れるという面と、物理的に普段の買い物に時間をかけたくない、かけられなくなるという両面があるように感じる」と著者。
その一方で、人々は困難な中にあるときは希望の光や、新しい光を求めるもの。東日本大震災のときには地域への思いや人とのつながりの大切さのアピールがしばしば聞かれた。コロナ禍では、オンライン飲み会で映える酒製品のパッケージデザインを特集するような、たくましさもみられた。
著者は、
「大きな変化があったときには人の強さと弱さの両面を見据えた『ロングセラーブランドの強化』と『人々の希望に寄り添うこと』の2つの視点がパッケージデザインに必要だと感じる」
という。
知識編ではまた、「対称と非対称」でそれぞれに込められた意図や、「顔写真」を使うリスク、プルトップ缶やマヨネーズなどのチューブ容器に託されたメッセージ、ネーミングや色づかいの背景などについて解説。これらを読んでからスーパーに出かければ、買い物以外の楽しみ方ができそうだ。
「売れるパッケージデザイン 150の鉄則」
小川亮著
日経BP
2900円(税別)