「商は詐なり」は江戸時代の武士の口癖
通して読むと、井沢さんが、江戸幕府の掲げたイデオロギー、朱子学がもたらした悪影響にこだわっていることを痛感する。
江戸幕府は経済的側面から言えば、「朱子学バカの経済オンチ政権」と手厳しい。徳川吉宗や松平定信がその典型的な政治家だという。「百姓を徹底的に絞り上げた将軍吉宗」「ロシアとの友好の道をつぶした定信」など多くの紙幅を使って、朱子学がいかに江戸時代の日本を歪めていたか指弾している。
「商は詐なり」というのが江戸時代の武士の口癖だ。「すべての商売とは詐欺である」という意味で、商業を重視した田沼意次も「極悪人」とされた。日本にはいまも、こうした「商業蔑視」の偏見、おかしな価値観はないだろうか? 江戸時代に刷り込まれた朱子学のイデオロギーが21世紀の今も続いているとしたら、おかしなことだ。
「国際レートの3分の1で金を大量に放出」という項目に驚いた。日本が鎖国する以前の金と銀の交換レートは、最近の研究で1対5だったことがわかった。それが、日本が鎖国してから、メキシコなどで大量の銀山が発見され銀の価格は国際的に下落。幕末に開国した頃は1対15であった。
ところが、経済オンチの幕府は鎖国以前のレートで開国し、外国商人の自由な取引を許したのである。その結果、大量の金貨が海外に流出した。
幕府は金の含有量が少ない粗悪な小判に取り換えたが、激しいインフレを招き、幕府の滅亡につながった、と見ている。