大阪市や旭川市が医療崩壊して自衛隊の救援をあおぐ事態になっても「GoToトラベル事業」に執着する菅義偉首相。「GoToトラベルによって感染が拡大したというエビデンス(根拠)がないと専門家も言っている」というのが、菅首相の拠りどころだった。
しかし、GoToトラベルキャンペーンの利用者のほうが、利用しなかった人よりも新型コロナウイルス感染を疑わせる症状が多いという調査結果を東京大学などの研究チームが発表した。この専門家の見解を菅首相はどう受け止めるのか。
与党内からも「支持率をどんどん下げている」と批判
こうした強引ともいえる菅義偉首相の「トラベル推進姿勢」に、与党内からも批判が起こっている。このところ、菅内閣の支持率が急落していることも動きに拍車をかけたようだ。時事通信(12月8日付)「内閣支持急落に政府が危機感 GoTo批判、与党にも」が、こう伝える。
「報道各社の12月の世論調査で菅内閣の支持率が急落し、政府・与党が危機感を強めている。読売新聞の調査によると、支持率は前月から8ポイント減の61%。JNNが実施した調査では同11.5ポイント減の55.3%と大きく落ち込んだ。いずれの調査も、政府の感染対策を『評価しない』が『評価する』を上回った」
「与党内ではGoTo事業への疑問が相次ぐ。自民党参院幹部は『感染拡大は止めたいがGoToは止めない、では国民は理解できない』と指摘。公明党関係者も『政府が旅行を奨励すれば国民は緩む』と感染状況悪化との因果関係を認めた。自民党の閣僚経験者は菅義偉首相の4日の会見に触れ、『コロナ対策について説明すべきことを説明していない』と批判。『支持率はどんどん下がるだろう』と漏らした」
菅政権の危機管理は「あまりに少なく、あまりに遅い」
ネット上ではGoToトラベルに執着する菅義偉首相の姿勢について批判が殺到している。まず、東京大学などの研究チームの調査については、こんな意見が。
エコノミストの門倉貴史氏はこう投稿した。
「このような調査が出てきて、GoToトラベル事業が観光需要とともに新型コロナの感染までV字回復させた可能性が高まってきた。観光・旅行は他の経済活動と異なり、いくら感染予防策を徹底しても、移動を伴うため『3密』を完全に回避することが難しい。GoToトラベルが感染拡大の一因になっているとすれば、経済効果どころか、それをはるかに上回る経済損失を発生させてしまう。この政策は『本当に経済効果があるのか』『感染拡大を助長していないか』など詳細な検証が必要で、一刻も早く全国一律で一時停止とすべきだ」
国際ジャーナリストの高橋浩祐氏はこう書いた。
「大阪や旭川などが(自衛隊の救援を求めるほどの)医療崩壊の危機にある。1人でも多くの命を救いたいならGoToトラベルを至急止めるべきではないか。危機管理の鉄則は古今東西、『大きく構えて小さく収める』ことだと言われてきた。ところが、菅政権の対応は『Too little, too late』(あまりに少なく、あまりに遅い)で、後手に回っている。本来は第1波が収まったとき、検査を大幅に増やし、第2波の流行が発生するリスクを減らす必要があった。これをしっかりと実施してなかったために、各地で事実上の新たなロックダウンが必要となるような事態に追い込まれている。菅政権はGoToトラベル中止を含め、大きく構えて先手を打つべきではないか」
東大チームの調査は国がやるべきだったという意見も多かった。
「こういう調査は、本来、国が検証するためにやるべきでしょう。いや、やっているかも知れませんが、不都合なので隠しているのでしょうか。得意技だから。地方の感染拡大は、GoToトラベルが一番の原因だと思います。調査方法はわからないが、納得はできます」
GoToトラベルより「海外旅行客受け入れ実験」が怖い
しかし、GoToトラベルより、菅政権が考えている来春の「海外旅行客受け入れ実験」のほうを問題視すべきだという指摘も多かった。
「GoToトラベルもそうだが、先日、テレビで海外から帰国した日本人が空港から自宅までを当たり前のように公共交通機関を使っている映像を見た。改札の近くで『海外から来た人は専用車を使え』という看板持った人がいたが、強制力はない。日本人でさえこんな状態なのだから、海外旅行客を受け入れたら、日本はなめられてしまう」
「GoToよりも海外からの入国について調べて欲しい。先日の入国制限緩和により6万人以上が入国しています。そして来春には訪日観光ツアーを考えているとのこと。GoToトラベルなんかより、絶対こっちのほうが危ない。しかも今、感染拡大している地域は国際空港があるという共通点があります。国内の行き来は制限するのに、海外からの入国は緩和って...。こちらが頑張っても入ってこられたら意味がない」
「ニュースで見ましたが、台湾では入国後の隔離が厳格で、部屋から廊下に8秒間出ただけのフィリピン人に37万円の罰金が科されていました。日本は強制力がなく、緩すぎて話にならない。そんな状態でさらに緩めて大丈夫なのか」
尾身茂分科会会長に対しても、こんな批判が。
「尾身会長は、GoToが始まる直前に、『旅行で感染が拡大することはない』と発言して、GoTo開始にお墨付きを与えてしまいました。今ごろ、人の移動を減らせ、と言っても後の祭りです。政府への忖度が感染拡大の一因となったことを深く反省すべきでしょう」
「尾身さんの分科会ですが、全くデータを示さず、感覚的、官能的なコメントしかしなくて、自分は信用していない。例えば、ある日の感染者が2000人とした場合、2週間以内に...GoToトラベル利用者が〇〇%、GoToイート利用者が〇〇%、居酒屋利用者が〇〇%...とデータを示せばもっと説得力がでます。逆に大きな影響でない場合は、コメントがとんでもないミスリードとなる。以前、パチンコを一斉にいじめた時のように」
最後に「GoToトラベルには罪はない」とする意見も紹介したい。
「GoToトラベルを利用しても、感染していない人も多くいる。感染者の出ていない旅館や施設、観光地だって少なくない。問題なのはGoToトラベルを利用して、感染リスクの高い場所に行ったりしなかったかということ。歓楽街で飲み食いしたり、知人と酒宴をしたりすればリスクが高まるのは当然。感染防止に充分な配慮をしたうえで、GoToを利用していたかどうかが問題だ。GoToを利用したかしないかではなく、どういった場所、どういった行動によって感染したかを調べるほうが重要。GoToを利用しながらも、感染対策に気を使っていた者と、そうでないものの比較のほうが役に立つのでは?」
(福田和郎)