2020年、日本でも5G(第5世代移動体通信システム)の商用サービスが始まった。年初から「5G元年」といわれ期待が高まっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大でいつの間にか影を潜め......。とはいえ、5G対応端末のリリースが増え、11月にはNTTドコモが5Gエリアマップを公開したこともあり、いよいよ5G時代の本格化がみえてきた。本書「図解まるわかり5Gのしくみ」は、新時代に備えた予習に絶好の一冊。
「図解まるわかり5Gのしくみ」(飯盛英二、田原幹雄、中村隆治 共著)翔泳社
5Gで「大きく変わる」って、なにが?
5Gの登場で私たちの生活スタイルやビジネスモデルが大きく変わることが期待されてている。本書では5Gがどのような技術に支えられていて、これまで通信システムとは何が違って、どのように私たちの生活や既存のビジネスに変化をもたらすのかが解説されている。
「大きく変わること」の、わかりやすい例として、まず「ローカル5G」が紹介されている。通信事業者に依存せず、特定の周波数帯域を使って構築できる小規模なネットワークで事務所や工場、特定エリア内で活用できる。たとえば災害発生時や大規模イベント開催で、多くのユーザーがキャリアの回線に集中すると接続困難になる可能性があるが、ローカル5Gの独立したネットワークがあれば、その心配はなくなるとされる。
5Gの特徴として超高速通信やモノ同士の通信が可能になることなどが挙げられており、本書でもこれまで何十秒とかかっていた2時間分の動画ファイルのダウンロードが3秒でできるようになることが紹介されているが、類書以上に力を入れているのがローカル5Gについてだ。「さまざまなサービスを大きく変えることが期待されており、ビジネスチャンスにもなっている」という。ローカル5Gを運用する制度は2020年度から始動したばかり。本書では8章建てのうちの1章を、ローカル5Gに充てて詳しく解説している。
動画、画像の処理も進化
本書ではまた、移動体通信の基礎的な仕組みの解説に加えて、私たちに最も身近な存在となる5Gスマートフォンに搭載されている新しい技術を、第5章と第6書の2章にまたがり詳しく紹介している。「5Gのスマートフォンに興味のある読者は第5章から読み始めていただくこともできる構成」だ。
超高速通信の5Gだが、スマホの通信速度はディスプレイ解像度と密接に関連しており、5Gの高速通信を活かすサービスを実現するためには、スマホでは、大画面でありながらモバイル性を持ったディスプレイが必要だ。
そこで登場してきたのが画面を折り曲げて収納する折りたたみ式のスマホだ。耐久性の問題などがあり市場ではまだあまり普及してはいないが、アンドロイド10では、折りたたみ式の端末の表示をサポートする機能を搭載している。
こうした動きをとらえて本書では「ディスプレイの新形状を活かす5Gに特化したアプリケーションが出てくると、これまでのスマートフォンの用途や応用範囲が大きく広がる可能性がある」と指摘する。
折りたたみ式のディスプレイは現状で、横型の二つ折りばかりでなく縦型の二つ折りや、横型の三つ折り型がある。OSやアプリでサポートできれば、さらに小さくたためるようになるかもしれない。
超高速通信の5Gではまた、スマホのカメラの高機能化が予測される。4Kや8Kで撮影した高画質動画を、対応のテレビで受診し視聴することがトレンドになることが考えられる。また、画像処理の高速化で、これまでできなかった一眼レフ並みに背景をぼかして被写体を際立出せる撮影も可能になるという。
本書の著者3人はいずれも、富士通とその関連会社で5Gに関連する分野で業務に取り組んでいる技術者ら。連名のあとがきで「5Gの等身大の利用価値を探すための材料のひとつとして本書が少しでもお役に立てればと願っています」と述べている。
「図解まるわかり5Gのしくみ」
飯盛英二・田原幹雄・中村隆治著
翔泳社
1680円(税別)