日本のデジタル化、IT化は海外に比べて大きく遅れている。それは、このコロナ禍で政府の特別低額給付金や持続化給付金の支給などが大幅に遅れたことでも指摘された。なぜ、こんなことに......。
本書「IT人材が輝く職場 ダメになる職場 問題構造を解き明かす」は、コロナ以前から「IT後進国と揶揄される日本」が「このままでは周回遅れが加速し、海外の企業にも大きく水をあけられる一方」の状況に対する危機感から、その改善を目的に上梓された一冊。著者は「経営層も顧客もIT職場の管理者や担当者も、問題意識を共有して解決に向けた一歩を踏み出そうではないか」と呼び掛ける。
「IT人材が輝く職場 ダメになる職場 問題構造を解き明かす」(沢渡あまね著)日経BP
IT人材をリスペクトしない経営者
著者の沢渡あまねさんは、業務プロセス・オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車やNTTデータのほか大手製薬会社での勤務を経て、2014年9月からフリーランスで仕事している。
2019年からは複数の中堅およびベンチャー企業の顧問を兼任。一貫してITに関わり続け、顧客として、SI(システムインテグレーター)企業の従業員として、また事業部門の情報システム推進組織の、情報システム部門の一員としてなど、さまざまな立場を経験。その豊富な経験を生かして働き方改革やシステム運用の改善のための活動を続けている。
ITの進化が著しい近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やICT、シェアリングエコノミー、MaaS(マース)などが、ビジネスのマネジメントのキーワードとしてメディアを賑わせている。いずれもITの活用が前提だ。
その流れを受けて、経営トップは「プロフィットとイノベーションのためにITを」あるいは「ITを経営の武器に」などと声を挙げて、従業員を鼓舞している。
「しかしながら...」と著者。「情報システム部門など、実際にIT化を促進する現場の実態はどうだろうか」と、疑問を投げかける。
経営者が威勢よい言葉を掲げている企業でも、ITの担当現場はというと「ベンダー丸投げ、主体性も技術力もない」とか「巨大なガラパゴスと化した基幹システムのお守りで精いっぱい」「リテラシーの低いユーザーの問い合わせ対応や『お世話』に疲弊している」ということがしばしば。また、経営層や顧客がIT人材を「リスペクト」しておらず、投資をしない、失敗をIT職場のせいにする―というケースも散見される。
「なんちゃってIT職場型」など企業を9つに類型
本書では、IT化の推進を標榜しながら機能不全となっている企業を9つに類型。「なんちゃってIT職場型」「低プレゼンス型」「レガシー製造業スタイル型」「コミュニケーション不全型」「エンゲージメント低下型」「マネジメント不全型」「事務作業パラダイス型」「お客様は神様型」「学習不全型」―― が、それだ。
「なんちゃってIT職場型」で、まず紹介されるのは「テレワークシステム」の販売会社。社内稟議ではワークフローシステムを使っているが、稟議書はプリントアウトされ上司にハンコをもらうことが必要プロセスであり、勤怠管理はタイムカードだ。
次は、クラウドサービスを提供しているIT企業。従業員が業務のあるシーンにクラウドの導入を提案したところ、「セキュリティに不安がある」ことを理由に上司が猛反発したという「ウソのようなホントの話」が引用されている。
「今や金融機関や官公庁、自治体でもクラウドサービスを利用し始めている時代だ。売り手であるIT企業がセキュリティやガバナンスを『言い訳』にして導入の検討すらしないのはいかがなものか。それでいいはずがない」
と、著者は指摘する
IT人材は職場に求めるものが違う
こうした企業では、経営者らの掛け声がいくら勇ましくてもIT人材は離反するばかりで成長の足掛かりを失うに違いない。優秀な人ほど職場環境には敏感。もし「優秀な人ほど辞めていく」と悩んでいるとしたら、それはきっと職場環境に問題があるはずという。
では、どんな職場をつくればいいのか――。通常の事務職とIT人材では職場に求めるものが違う。大事なことはIT人材が嫌がる環境を知ること。著者は、アンチパターンを押さえることで、初めて「IT人材が働きたくなる」職場になると説く。
本書では、実例をベースにIT人材が嫌がる職場の例を多数掲載。「なんちゃってIT職場型」をはじめ、9タイプごとに「では、どうすればいいのか」と、対策をまとめて示している。「この職場はウチのことだ」と当てはまるなら、早急な改善が必要かもしれない。
「IT人材が輝く職場 ダメになる職場」
沢渡あまね著
日経BP
2000円(税別)