「せめてクリスマスだけは大切な人と過ごせるように」――。ドイツで暮らす多くの人は、そんな思いを抱きながら、いまを乗り越えようとしているのかもしれません。
新型コロナウイルスの急速な感染再拡大を受け、2020年11月2日からドイツ全土で実施されている「ロックダウン」。飲食店や娯楽施設が閉鎖となり、宿泊施設は旅行客の受け入れが禁止されるなど、再び人の動きが大幅に制限されています。
ただし、春のロックダウン時は一部の業種に限られていた小売店の営業は、衛生措置を遵守したうえで業種を問わず継続。学校や幼稚園も引き続き開いているため、制限の範囲は「部分的」です。
部分的ロックダウンで分かれる明と暗
週末にデュッセルドルフ市民から親しまれている常設市場、カールスプラッツに足を運んでみると、以前と変わらず賑やかな様子。いつもと違うのは、飲食スペースが閉鎖され、市場の周りでテイクアウトした食事を、道ばたで食べる人が多いこと。1.5メートルの間隔保持もあってないようなものです。
ところが、そこから少し足を伸ばして観光客目当てのビアレストランが軒を連ねるマルクト通りへ向かってみると、水を打ったかのように静か。テイクアウトをしているお店はあるものの、人通りはまばらで前回のロックダウン時を彷彿とさせます。
今回も臨時休業の影響を受ける企業や自営業者などは、損失の75%を補償する経済援助を受けることができますが、痛手は相当なはず。部分的ロックダウンの様子を伝えるニュースで、インタヴューを受けたレストラン店主の「これ以上は......」と話す悲痛な様子を思い出し、胸が苦しくなりました。
これまでの教訓を生かし、維持できるところはそのままに、「部分的」に制限を加えるロックダウンが果たして功を奏しているのかどうか。たくさんの人の犠牲や負担の上にいまが成り立っている、その現実をコロナ禍は突きつけてきます。
コロナ禍でもストライキでベースアップ合意
じつは、部分的ロックダウン導入前の10月に、ドイツ各地ではストライキが度々行われていました。これは労働組合「ver.di(ヴェルディ)」(組合員数約200万人)の呼びかけによるもので、公共交通機関や医療福祉など公共サービスに携わるさまざまな職種の人々が参加しています。
地域によってストライキの時期や内容は異なりますが、私の住むデュッセルドルフ市では、平日である10月8日、15日、19日、20日の4日間にわたって警告ストライキが実施され、地下鉄や路面電車、バスなどが終日運休。他にも市議会や州庁、病院、ごみ収集や年金保険などの部門でサービスが休止となりました。
「なにもこんな時期にやらなくても」とストライキに慣れない身としては思ってしまいますが、ストライキをする側のドイツ人に言わせれば「こんなときだからこそ」なのでしょう。ホームオフィスもままならず、感染のリスクにさらされながら、社会システムを維持するために仕事を続ける日々。正当な対価を求める権利はあるはずです。
今回、ヴェルディは年間の給与を4.8%増額することを要求。団体交渉の結果、ドイツ経済が5.4%縮小するなか、最低賃金区分では4.5%、最高賃金区分でも3.2%の昇給を勝ち取りました。また、医療や介護分野では集中治療手当や介護手当などの支給が合意され、年間最大1,800ユーロの収入増に結びつく結果に。優秀な人材を確保することにつながると期待されています。
もちろん、コロナ禍で財政がひっ迫するなか、ストライキを実施するという強硬手段をとったことに批判の声もあがっています。しかし、厳しい労働環境に置かれている当事者が声を上げ、労働に見合った対価を得ること。これは社会の摂理として真っ当な姿ではないでしょうか。今後、どんなに不透明な状況が続こうとも、今回のような結果を導き出せるドイツであれば、救済の手から取りこぼされることはないのではないか。そんな思いすら抱かせてくれます。
部分的ロックダウンは当初、11月2日から11月末までと期間を設けての措置でしたが、いまだ収束の兆しは見えず、12月20日までの延長が決定しました。12月1日から22日までは、集まれる人数を2世帯、最大5人までに制限。12月23日から1月1日までは、複数世帯、最大10人まで集まることを許可するという、クリスマスだけの特別対応となります。
ドイツ人にとってのクリスマスは、日本人にとってのお盆やお正月のようなもの。普段は離れて暮らす家族が集まる、一年に一度の大切な行事です。多少のリスクを背負ってでも、その機会を奪うわけにはいかないという州や連邦政府の判断なのでしょう。誰もがいっときでも安寧の時間が過ごせるように、そう願ってやみません。(神木桃子)