注目される水素燃料電池 山梨県が研究を公開 トヨタ・ホンダのFCバスで災害支援を実証実験

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   燃料に水素を使う燃料電池バス(FCバス)を活用した移動式発電・給電システム「Moving e(ムービングイー)」の実証実験が、2020年11月26日に山梨県内でお披露目された。

   山梨県内では産官学が連携して水素エネルギーや燃料電池の研究が進められており、ムービングイーを含めたさまざまな実証実験を経て、次世代エネルギーによる新しい産業づくりをめざしている。

   水素は利用時に温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)が発生しないほか、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでも製造できる。菅義偉首相が11月22日に主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を「国際公約」として示したこともあり、水素を使う燃料電池もクリーンなエネルギーとして注目が集まっている。

  • 山梨県庁で公開されたムービングイー(2020年11月26日、甲府市)
    山梨県庁で公開されたムービングイー(2020年11月26日、甲府市)
  • 山梨県庁で公開されたムービングイー(2020年11月26日、甲府市)

FCバスが「電源」被災地で電気供給、平時も屋外イベントで稼働

   ムービングイーは、トヨタが従来のものをベースに水素タンクを約2倍に改造したFCバスから、ホンダの持ち運び可能なバッテリー計56個や外部給電器を通じて電力を供給する。災害時に被災地に移動させて、FCバスのバッテリーを停電した地域の家庭や避難所で使い、バスで繰り返し充電できる仕組みだ。

   最大490キロワット時(走行分含む)の電力供給が可能。水素ステーションから被災地まで片道100キロメートルを移動し、50人規模の避難所で3日間、炊事や照明、暖房などに電力を供給するなどの活動をした後、再び同じ水素ステーションに戻れるという。

   トヨタとホンダは、災害時に限定するのではなく、大型ライブなどの屋外イベントやキャンプなど「平時」も稼働させることで、いざという時に当たり前に使える状況を目指すとともに、運用コストを低減することを狙っている。

   自治体に導入してもらうことを想定しており、その際はFCバスが平時に公共交通機関として活用されることも期待している。

ムービングイーのFCバスの給電口は従来の1口から2口に増設された(2020年11月26日、甲府市の山梨県庁)
ムービングイーのFCバスの給電口は従来の1口から2口に増設された(2020年11月26日、甲府市の山梨県庁)

   ムービングイーの実証実験は20年9月から始まったばかりだ。全国各地でシステムの需要や使い勝手を検証している。山梨県でも11月22日に富士川町の鰍沢小中学校で行われた地震防災訓練に合わせて実証実験が行われ、避難所の扇風機などの家電製品への電力供給に活用された。

   この日、トヨタ、ホンダの担当者はメディア関係者に、

「地球温暖化への取り組みだけでなく、両社の強みを生かして被災地への直接的な貢献ができないか考えた。こうした取り組みは電気自動車(EV)などでもできるが、多様なエネルギーの選択肢があることも価値がある」

などと語った。

海外も注目「水素・燃料電池バレー」目指す山梨県

   またこの日、甲府市内などに集積する水素・燃料電池に関する最新の技術や先端的な研究成果が、メディアに公開された。

   山梨県は、世界的なIT産業の集積地である米サンフランシスコの「シリコンバレー」を文字って、水素・燃料電池産業が集積する「水素・燃料電池バレー」の実現を目標に掲げている。長崎幸太郎県知事もメディアに向けて、 「山梨県は水素や燃料電池に関して日本の最先端の地域であると自負しています。研究は、国内ではあまり知られていませんが、海外から注目を集めています」

とアピールした。

記者らに山梨県の水素・燃料電池に関する取り組みを説明する長崎幸太郎知事(2020年11月26日、甲府市の山梨県庁)
記者らに山梨県の水素・燃料電池に関する取り組みを説明する長崎幸太郎知事(2020年11月26日、甲府市の山梨県庁)

   水素・燃料電池に関する研究で中心的な役割を担うのが、山梨大学の「燃料電池ナノ材料研究センター」(甲府市)だ。燃料電池に使われる高耐久・高性能・低コストの触媒や電解質材料などの研究・開発を進めてきた。今年5月の時点で、省エネルギーや地球環境問題について研究する同大の「クリーンエネルギー研究センター」と合わせて計85人の教員・研究員を抱える。

   メディアへの説明を担った飯山明裕所長は、

「燃料電池の分野で世界最大級かつトップレベルの研究施設だ」

と話した。

   燃料電池ナノ材料研究センターでの研究の中心は、燃料電池の心臓部と言われる「セル」だ。より効率良く反応し、長期間使っても劣化しないようにするための仕組みや材料の開発を進めている。県内中小企業とも連携しており、非常用電源として利用できる燃料電池システムや、小型で低コストの燃料電池を実現できる部品などの製品化が目標だ。

山梨大燃料電池ナノ材料研究センターの飯山明裕所長(2020年11月26日、甲府市)
山梨大燃料電池ナノ材料研究センターの飯山明裕所長(2020年11月26日、甲府市)

   この日は、同センターでの研究成果を活用した事例として、高性能のセルを積層させたスタック(発電装置)などを供給する「日邦プレシジョン」(山梨県韮崎市)や、次世代燃料電池の重要な部材などを開発・製造する「エノモト」(山梨県甲州市)などの取り組みも紹介された。

甲府市南部に実証施設も整備 民間への供給も

   山梨県が甲府市南部の米倉山に整備した水素製造などの実証施設も公開された。

   燃料電池で動く自動車(FCV)に燃料となる水素を補給する水素ステーションに関する技術開発を担当するのが、一般社団法人水素供給利用技術協会の水素技術センター(HTC)だ。HTCは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で建設され、2017年から稼働した。

水素供給利用技術協会の池田哲史理事(2020年11月26日、甲府市の水素技術センター)
水素供給利用技術協会の池田哲史理事(2020年11月26日、甲府市の水素技術センター)

   HTCは高圧水素圧縮機や水素を蓄えておく蓄圧器ユニット。水素を車両に供給するためのノズルを備えたディスペンサーなどがある。国内の商用水素ステーションでは不可能な圧力87・55メガパスカルの圧力で充填できるディスペンサーを2基備えている。

   HTCの近くには、山梨県企業局の「米倉山電力貯蔵技術研究サイト」もある。太陽光などの再生エネルギーから水電気を分解することで水素製造や貯蔵、利用を行うシステムの実証研究を行う施設だ。

米倉山太陽光発電所(2020年11月26日、甲府市)
米倉山太陽光発電所(2020年11月26日、甲府市)

   米倉山で山梨県と東京電力ホールディングスが共同で運営する大規模太陽光発電所に隣接し、天候や時間によって出力が変動する太陽光発電の電力から年間45立方メートルの水素を生成させ、利用するシステムの確立を目指している。すでに工場や商業施設への供給は実証段階に来ているという。

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