新型コロナウイルスの影響で訪問件数が減ったり、オンラインで商談をしたり、お客様と会う回数が減っている営業マンは多いだろう。こうした中で、逆に「対面営業力」が大事になってくると説いているのが、本書「ヨイショする営業マンは全員アホ」だ。
「対面のドブ板営業にきれいごとは通用しない」という著者の経歴や、「泥水をすすりながら身につけた」ノウハウと精神論に圧倒される。コロナ禍で売り上げ目標が達成できないと悩む営業マンや「営業職は敬遠したい」という就活生に勧めたい1冊だ。
「ヨイショする営業マンは全員アホ」(宋世羅著)飛鳥新社
教科書通りの営業から脱却せよ
著者の宋世羅(そん・せら)さんは、1989年大阪府出身。ボロボロに荒れまくっていた中学で不良にいじめられた。「中の上くらいの高校」から二浪して早稲田大学人間科学部へ。野球部にいたことをアピールしているが、公式戦には一度も出られなかった。そんな早稲田の野球部と同じ匂いがした野村證券に入社。社内表彰を多数受けた。4年間勤務の後、独立し、現在はフルコミッション(完全歩合制)の保険営業マン。2020年2月からYouTube「宋世羅の羅針盤ちゃんねる」で保険、株、投資信託、貯金、営業のノウハウを現役のプロとして発信。チャンネル登録者数は8か月で12万人を超えた。
営業のノウハウをたっぷり披露しているほか、厳しい営業で知られる野村證券時代の成功と失敗談が読ませる。
「教科書通りの営業から脱却せよ」「結論、成功できるのはドブ板営業マンだけ」「『売れる』人間力を生み出せ」の3章からなる。
冒頭、オウム返しやミラーリング、取ってつけた雑談、「小さなイエスの積み重ね」など、営業について書かれたビジネス書や新人研修で教えられる、いくつかのノウハウを、「現場でやったらただのアホ」と戒めている。
また、営業マンは自分の言いたいことと、お客様の要求に対する返しのバランスが大切だという。
「自分の言いたいセールスのことばかり話す自己中野郎か、もしくは相手の求めていることを返すばかりの愚痴聞きホステスのパターンか、このどっちかになっている」
それが、センスのない営業マンの特徴だ。
「型を外す対応力」「一気にぶった切って、本題に戻す」「プライドを持つ場所を間違えるな」「商談の最後には、覚悟と責任を示せ」などとアドバイスしている。
飛び込み営業の極意
野村證券時代は死ぬほど飛び込み営業をしたという。少なく見積もって年間2万件、新人の頃は一日150件はやったそうだ。200件のインターホンを押して、そのうち1人お客様になってもらえるかどうか、と実感を書いている。
野村には営業マンのマニュアルやトークスクリプト(台本)が一切ない。ドアを開けてもらうためにたどり着いた、一つの文言がある。
「野村證券の宋です。エリア担当をすることになったので、ご挨拶に来ました。名刺だけでも受け取ってもらえませんか」
それっぽいことを言っているが、意味不明だ。何を言われても「エリア担当です」「ご挨拶に来ました」の二択で返し続ける。あえて会話をしないことで、ドアを開けてもらったという。
いよいよ、お客様に会えたら商品の説明だ。うまくなるには、トレーニングしかない、つまり努力で9割方は解決できる、と断言する。
実際に口に出してつぶやくこと。お風呂の中でも架空のお客様を想定しながらブツブツブツブツやっているという。説明することに余裕があると、相手の反応だけに100%意識が向けられるようになる。
ヨイショはするな、と言いながらも、経営者や大物を褒めるポイントを3つ挙げている。
1 真面目な雰囲気でまっすぐ褒める
2 他の社長とあなたは違うと伝える
3 自分なりに考えた本質的な部分を褒める
じつは大物ほどイエスマンを求めていないという。意見を聞かれた場合のみ、しっかり自分の考えを言えばいいという。「ポジションを取った物言いをハッキリできるかどうかが分かれ道です。その時の思考の深さや話す雰囲気、内容などを見て、相手はこれから付き合っていくかいかないかを判断している」のだ。
「営業はいらない」と言う奴は全員アホ
最近、テクノロジーの時代だから営業はいらない、営業はなくなるという人が増え、そうした趣旨の本も出ている。だが、不動産や保険など重要で高額な商材の営業は絶対に必要だと力説する。
以下が営業マンの存在意義だ。
1 お客様が知らない知識、情報を与える
2 お客様が持っている知識、情報の確認
3 お客様が気づいていない考え方、ニーズを掘り起こす
4 お客様の背中を押す
特に、3と4が最も重要なところだという。
世の中には無数の営業マンがいる。その中から自分を選んでもらうには、商品以外の人間力が必要だ。自分の価値をどう生み出すか。6つのポイントを挙げている。
1 コンサル力...... 保険であれば、その他に税務知識、財務知識、証券知識、不動産知識など関連の知識
2 会って話すと楽しい、元気が出る...... 人として好かれること 3 こいつと付き合っておけば将来何かプラスがあるかもしれない
4 シンプルに「この人を応援したい」...... 一生懸命さ、必死に頑張っている態度
5 これだけやってもらったのでこの営業マンに頼む...... 無償の「give」を与え、感謝される
6 憧れの存在...... 2、3、4を組み合わせて派生させたパターン。フルコミッションの保険営業マンには普通に存在するという
本書がよくあるビジネス書と一線を画しているのは、人間臭さだ。文句なしにおもしろい。それゆえ、8か月で12万人を超えるYouTubeの登録者を獲得したのだろう。
営業マンがユーチューバーになる。そしてYouTube経由で「対面営業」をして顧客を獲得する。そんな新しい営業スタイルも見えてくる。
「ヨイショする営業マンは全員アホ」
宋世羅著
飛鳥新社
税別1300円