「セレンディピティ」という言葉が、社会やビジネスの世界で使われる機会が多くなっている。「偶然の幸運をつかみ取る力」を意味する英語で、童話から生まれた言葉だが、複数の日本人ノーベル賞受賞者が使ったことから広く知られるようになった。
本書「人見知りでもセレンディピティ 身近な奇跡が爆増する20のルール」は、転職や起業、就活や婚活など決心や頑張りが必要な時に、簡単なコツさえわかっていれば、たとえ引っ込み思案な人であってもセレンディピティを引き寄せられるということを教えてくれる。
「人見知りでもセレンディピティ 身近な奇跡が爆増する20のルール」(林勝明著)飛鳥新社
グーグルは社内交流やサークル活動が盛んな会社
著者の林勝明さんは、セレンディピティコンサルタントであり、セレンディピティをテーマに企業コンサルタントなどを行う会社の代表を務める。
厳しい家庭環境に馴染めないままに幼少から少年期を孤独に過ごしたという著者。高校を卒業してからは自分を変える目的で「逃げるように」米国に渡って大学を卒業。日本に帰り大学院修了を経て2007年グーグル・ジャパンに入社した。
当時はまだ「人間関係の迷子」だったが、グーグルは社内交流やサークル活動が盛んな会社であり、幸運だった。著者は米国で習ったダンスを通じて交流の輪を広げるようになり「心許せる仲間が爆発的に増えた」という。
こうした経験からセレンディピティに興味を持ち、10年間勤務した後にグーグルを辞めて独立し、知らない人同士をつなぐコミュニケーションの場を設けて「セレンディピティの確率を劇的に上げる」ことを研究、セレンディピティにかかわる仕事に携わるようになった。
本書で述べられているのは、著者が研究や仕事を通して得たセレンディピティを起こすコツ。そのコツをつかむとどうなるかというと、「転職サイトで全滅したのに最適な仕事をゲット」できたり、「ビジネスのヒントを得て独立し、サラリーマン時代の数倍の収入」になった例がある。
人間の本能は外交的ではない?
著者は、何千人という人たちの出会いのパターンを観察する中で「セレンディピティの法則」というべきパターンがあることに気づいた。それは、セレンディピティが出会いの頻度と気づきのかけ算の結果ということ。出会いの場を多くして、その出会いを後に生かす場とするならば、そのための行動をとることだ。
知らない人がたくさんいたら気まずいな、自分はここに受け入れられるだろうか――。そんな不安はたくさん人が感じている。日本人より、はるかに社交的と思われるアメリカ人でも、5000人を対象とした調査では約8割の人が「シャイ」。つまり対人関係の不安や不便(口数が減る、視線を合わせられない、わざとらしい作り笑いをしてしまうなど)を感じたことがあると答えている。
人間の本能には、そもそも外向きなコミュニケーション力が備わっていないという。神経感覚が、見知らぬ他人と人間関係をつくれるようにうまく設計されていないのだ。
だから、そもそも人間同士の出会いは、共に人見知りの段階で始まるから、打ち解けるきっかけとなる、氷を壊すような「アイスブレイク」が重要になる。アメリカでは、議論や会話のきっかけを提供する存在をアイスブレーカーと呼ぶことがある。
人見知り同士の場合は、相手の出身地や前日のご飯など、ほぼ必ず答えられる事実をベースにした質問が格好のアイスブレイク。「一見おしゃれで意識高そうな女子がカップラーメンを食べていたり、何の趣味もなさそうなマジメそうな男性が『夜はスイーツしか食べません』という意外な一面をもっていたり」することもあり、これらほど予想外のことではなくても、話しを展開しやすくなるはずだ。
セレンディピティには「準備」がいる
セレンディピティを求めることばかりが先走り、出会いの頻度を高めようとする場合が往々にしてある。そのことばかりに気を遣い、会う人や行く場所を決めることに疲れ果ててしまうことが少なくない。そうした場合に備え、「出会いの自動化」も考えよう。ボランティアなどに定期的に参加し、人と出会うことを習慣化させることも一つの手だ。
本書では、具体的にどうやって出会いの頻度を増やし、アイスブレイクについてなどをまとめた実践編を用意。「人見知り」の度合いに応じて1~10のステップアップ形式になっていて取り組みが容易になるよう構成されている。
「日常のちょっとした機会からセレンディピティが生まれ、それによって人生がガラリと変わることがあります」と著者。だが、それは準備していてこそ起きるということを忘れてはならない。
「人見知りでもセレンディピティ 身近な奇跡が爆増する20のルール」
林勝明著
飛鳥新社
1300円(税別)