中国法への無知が招いた挙証責任の転換
次に自動車事故で被害者の死亡が、自動車部品の欠陥に起因するかどうかが問題になった三菱自動車工業損害賠償事件を紹介している。
1996年、三菱自動車工業製のパジェロの助手席に乗っていた原告の父は、高速道路を走行中に、フロントガラスの一部が突然破裂し、死亡したとして、損害賠償の訴えを起こした。
一審は製造物責任法を適用せず、被告が勝訴した。しかし、明らかな誤審であり、二審でことごとく否定された。
だが、同法は欠陥が存在しなかったことの証明までをも製造者に求めているわけではない。欠陥の証明、および欠陥と損害の因果関係の証明は原告が行わなければならないのが、中国法の立場である。
しかし、被告の三菱自動車工業は二審による挙証責任の転換を安易に認め、さらに、こっそり大事な証拠物を日本に持ち帰るという失態を犯した。
ガラスはその後、中国に送り返されたが、この送り返してきた物が原物であることを証明できず、かつガラスはすでに粉々になっていて、検査のしようがなかった。
この証明妨害論が挙証責任の転換という二審判決を決定づけた、と小口さんは見ている。
「送り返してきた物が原物であることを証明すること」は悪魔の証明と言わざるを得ない、と書いており、被告の「中国法に対する軽視、否、無知に起因すると言うほかない」と手厳しい。