日韓関係が冷え込んでいるなか、韓国で活動している日本人女性タレントの「熱い勇気」が、韓国社会に温かな感動を与えている。
女性タレントが、未婚のまま国外で体外受精をして出産したことを公表。儒教の「重荷」から、未婚での体外受精が難しい韓国の制度に風穴を開けたと話題になっているのだ。
政権与党の共に民主党の女性幹部も、「韓国が開かれた社会になるよう貢献した」と称賛の声明まで発表する騒ぎになっている。
韓国で「サユリ」という芸名で活動する藤田小百合さん
この女性は、韓国で「サユリ」という芸名で活動する藤田小百合さん(41)だ。2004年に米国に留学したサユリさんは、韓国人留学生と仲良くなり、韓国の音楽や料理に親しみを覚えるようになったことをきっかけに韓国語を勉強。2006年から、韓国に留学した。
そのうち韓国放送公社(KBS)の番組「美女たちのおしゃべり」のレギュラー出演者に抜擢された。外国人女性が韓国での生活を語り合うトーク番組で、サユリさんは日本代表として歯に衣着せぬ物言いで人気を集めた。
やがて、バラエティーやドラマにも出演するように。自身のSNSでは筋トレで鍛え上げた40代とは思えぬナイスバディを披露するなど、「サユリ人気」が上昇した。そんな最中の2020年11月上旬、突然SNSで「体外受精で男の子を出産した」と発表。韓国中を驚かせたのだった。
その模様を韓国の芸能メディア「エンタメコリア」(11月17日付)「タレントのサユリが結婚せず母親に... 日本で精子の寄贈を受け男児出産」が、こう伝える。
「未婚のタレントのサユリ(藤田小百合、41)さんが11月16日、メディアを通して、日本で匿名男性の精子の寄贈を受け、男の子を出産したことを明かした。結婚していない状態で『自発的非婚母』になったのだ。サユリさんは今月4日午前、日本で体重3200グラムの元気な男児を出産した。KBS放送が16日に報じた」
KBS放送のインタビューによると、サユリさんは、韓国の産婦人科で診療を受けた当時、卵巣の年齢は48歳相当だと言われてショックを受けたという。
「自然妊娠は難しい上、すぐに体外受精をしても成功の確率は高くない、と医師に言われて目の前が真っ暗になり、死にたいという思いも抱いた。しかし、出産だけのために急いで結婚する相手を探すのも、愛してもいない人と結婚するのは正しくないと考えた。悩んだ末、結婚せずに人工授精によって『母親』になると決めた。韓国では、未婚女性が精子提供を受けて出産するのは違法だから、国外で精子提供を受けた」
と語ったのだった。
ネットユーザーたちからは、サユリさんのインスタグラムに「出産おめでとうございます」「勇気がすごくかっこよかった」などのコメントが殺到した。
与党の女性幹部も「開かれた韓国社会」に貢献と絶賛
というのは、韓国の制度では未婚の女性が精子提供を受けることは、違法ではないが、事実上非常に難しいからだった。
その辺の事情を朝鮮日報(11月19日付)「福祉部『藤田小百合さんのような非婚女性の体外受精、韓国国内でも違法ではない』 大韓産婦人科学会では『精子提供受けた手術、法的な夫婦のみ対象に実施』」が、こう伝える。
「サユリさん(41)の『非婚出産』について、保健福祉部(編集部注:日本の厚生労働省に該当)が『韓国において非婚状態で精子の提供を受け、妊娠するのは違法ではない』との見解を示した。保健福祉部によると、体外受精手術時、配偶者がいる場合に配偶者の書面による同意を得るよう規定しているだけで、配偶者がいない場合は書面による同意が必要ない。金銭目的で卵子や精子の提供を受けてはならないという法令に違反しなければ、非婚者の体外受精は違法でないということだ」
ただし、こうした法的な問題とは別に、大韓産婦人科学会はガイドラインで「精子提供手術は、原則的に法律的な婚姻関係にある夫婦のみを対象に実施する」と定めている。法令では、非婚女性のための手術を制限してはいないが、明らかに保護もしていない。韓国の非婚女性にとって体外受精で妊娠することは、事実上、非常に難しいのが現状だった。
このため、サユリさんの行動を称賛する声が、文在寅大統領の与党「共に民主党」の女性幹部たちからも巻き起こった。聯合ニュース(2020年11月17日付)「韓国で活動の日本人タレントが非婚出産 与党幹部も祝福」が、こう伝える。
「共に民主党の韓貞愛(ハン・ジョンエ)政策委員会議長は11月17日の国会院内対策会議でサユリさんが精子提供を受けて出産したことを祝福した。韓氏は、サユリさんが選択的シングルマザーになったとし、『サユリさんの子どもが育つことになる大韓民国がさらに開かれた社会になるよう、皆がともに努力しなければならない。国会がその役割を果たす』と述べた」
日本で女性タレントが体外受精で出産してもここまで話題にはならないだろう。しかし、サユリさんの勇気ある行動が韓国女性を勇気づけたのは確かだ。
(福田和郎)