菅義偉政権が誕生しても膠着状態が続く、日本と韓国の激しい対立。和解の手立てがいっこうに見えてこない。
そんななか、日韓合同プロジェクトで生まれた9人組ガールズグループ「NiziU」(ニジュー)の大躍進が冷え切った両国間で、明るい旋風を巻き起こしている。まだデビュー前というのに、NHK紅白歌合戦への異例の出場を決めた。
「『NiziU』のように韓日が協力しあえば、両国はうまくいくのではないか」。そう韓国紙は訴えるのだが......。
紅白出場に日本冷ややか、韓国称賛「人気の証明」
「NiziU」は、日本のレコード会社ソニーミュージックと韓国芸能大手JYPエンターテインメントが合同で企画したオーディション「Nizi(虹)」プロジェクトから誕生したグローバル・ガールズグループだ。
メンバー9人は全員日本人(1人は米国二重国籍)だが、所属は韓国の事務所。韓国でダンスと歌の厳しいトレーニングを受けてK-pop を歌うという、まさに日本と韓国のミックスの申し子だ。
12月2日に発売されるシングル「Step and a step」で正式デビューを果たすが、その前の2020年11月16日にNHK紅白歌合戦への出場が発表された。日本では「デビュー前なのに早すぎる」といった冷めた論調が目立ったが、韓国では多くのメディアが喜びに沸いた。
たとえば、韓国のスポーツ・芸能メディア「スポーツソウル」(11月16日付)「NiziUの紅白初出場、韓国メディアも注目『正式デビュー前に』『日本での人気証明』」が、こう伝えている。
「NiziUがNHK紅白歌合戦に出場することが決まった。その話題は韓国でも報じられている。『JYP新人グループNiziU、日本で熱い... NHK紅白歌合戦出演確定』(マイデイリー)、『NiziU、日本の紅白歌合戦に出演... 正式デビュー前の熱い人気』(メイル経済)、『NiziU、デビューアルバム発売を前に日本NHK紅白歌合戦に出演確定... "活動中断"ミイヒはどうなる』(トップスターニュース)、『日本国内における人気を証明』(Newsen)といった具合だ」
などと、合計7つの韓国メディアの見出しと主な内容を伝え、最後はこう結んだ。
「NiziUは、今年日本で大人気を得たドラマ『愛の不時着』とともに、日本の今年の新語・流行語大賞の候補に挙がるなど、第4次韓流ブームを導いている。韓国でも彼女たちの躍進が注目されている」
韓国のオーディション番組ならではのノウハウ
こうしたなか、「NiziU」の成功に学び、韓国と日本が新たな提携を結べば世界に飛躍できる、と呼びかけたのが硬派の大手紙「中央日報」(2020年11月23日付)だ。「『NiziU』の成功...『韓日が戦略的に提携すれば世界で通じる』」という見出しの記事は、東京の渋谷109タワーを「NiziU」の大看板広告がジャックした写真を掲載して、こう伝える。
「若者で賑わう東京渋谷の109タワーにNiziUの大型広告看板が登場した。電光掲示板には12月2日に発売されるNiziUのアルバムの広告映像が流れていた。NiziUの関連商品を販売するストアは9日前から入場券の第1次予約販売が始まったが、数万人のファンが集まって早々に締め切られた」
NiziUのグッズ販売専門店が109の中にあるが、早くもアルバム発売前に入場券が完売してしまったというのだ。中央日報が続ける。
「NiziUは韓国のJYPエンターテインメントと日本のソニーミュージックが共同で進めたグローバル・オーディションを通じて誕生した。9人全員が日本人で、初めから日本市場を通した世界進出を念頭に置いてスタートしたプロジェクトだった」
その合同プロジェクトの仕組みを、中央日報はこう伝える。
「昨年7月から日本8都市と米国ハワイ、ロサンゼルスで行われたグローバル・オーディションを通じ、1万人を超える応募者が参加した。このオーディション過程はYouTubeやオンライン動画Hulu(フールー)、日本テレビを通じて公開された。新しい回が公開されるたびにオーディション参加者の名前がYahoo!Japanのリアルタイム検索語に上がる。6月30日に発売されたNiziUのプレデビューアルバム『Make you happy』はオリコンランキングなど日本の各種音源チャートを席巻したのはもちろん、中国、香港、台湾、マレーシアでもチャート上位を占めた」
じつは、こうしたシステムは、韓国のオーディション番組ならではのノウハウだ。
「韓国コンテンツ振興院日本センター長のファン・ソンヘ氏は『韓国で検証済みのオーディション番組というフォーマット、JYPのトレーニングとプロデュース能力、日本のソニーミュージックの現地パワーなどのさまざまな強みの要素があった。韓国と日本がそれぞれ得意な部分を戦略的に協業したことが世界に通じた』と分析した」
「NiziU」の成功がアニメ、ウェブ漫画、ドラマの日韓協業に
中央日報は、「NiziU」の成功によって、K-popだけでなく、ドラマやウェブ漫画、アニメ、キャラクターなど多くの分野で韓日の戦略的協力が活発に進んでいるとして、さまざまな例を紹介する。
たとえば、日本のオンライン動画プラットフォーム(OTT)のクランチロールは、韓国のウェブ漫画「NAVER」(ネイバー)と協業。ネイバーの人気連載作品「神之塔」「ゴッド・オブ・ハイスクール」「NOBLESSE-ノブレス-」をアニメ化して韓国や米国、欧州などで大ヒットを記録した。韓国のウェブ漫画と日本のアニメ製作力が戦略的に提携した好事例だ。
「神之塔」は今年4~6月に1600万照会回数を記録、世界の有料会員300万人のうち約3分の1が視聴した。「ゴッド・オブ・ハイスクール」は2400万照会回数を超えた。地域別では米国、ブラジル、カナダ、フランスの順で視聴者が多く、ファンの反応も非常に熱いという。
中央日報が続ける。
「Netflix(ネットフリックス)などOTT業界では、すでに韓国コンテンツをどこの会社がより多く確保するかで戦争が広がっている状況だ。『愛の不時着』『梨泰院(イテウォン)クラス』などの大型ヒット作が登場し、OTTごとに韓国ドラマの確保に熱を上げている」
「日本のOTTであるU-NEXT(ユーネクスト)は現在、韓国ドラマを約1000本保有している。2年前から韓国ドラマの市場性を高く見て積極的に購入した結果、U-NEXTはNetflix、AmazonなどグローバルOTTに次ぐ日本国内3位規模に成長した。U-NEXTの堤天心社長は『月平均20~25時間を視聴すれば忠誠心が高いと見ているが、韓国コンテンツの主な視聴者は40時間以上見る熱心な視聴者たち。ドラマだけでなくバラエティ、ライブコンサートなどで韓国コンテンツを拡張する傾向』と話した」
このようにビジネスの分野で新しい日韓の協業が進んでいるのに、唯一のネックとなっているのが両国の政治状況だ。
「NiziU」のオーディション番組も昨年10月、日韓関係の悪化で1回分の放送が延期になった。前述の韓国コンテンツ振興院日本センター長のファン・ソンヘ氏は、中央日報の取材に、
「韓日関係が安定すれば交流と協業はもっと活発になる。嫌韓と反日情緒を一日も早く克服することが課題だ」
と強調した。
(福田和郎)