コロナ禍の対応を通じて、諸外国に比べてデジタル化が遅れていることが露呈した日本。その最中に誕生した菅政権は、デジタル強化を前面に打ち出しているが、「デジタル後進国 日本」の遅れは、果たしてどれほどなのか? 遅れの何が問題なのか? 見習うべきモデルになるような国はあるのか?
本書「デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」は、それらの質問、疑問を一挙に解消してくれる一冊。わたしたちの生活の利便性向上や、少子高齢化が進む将来のためにもデジタル化が欠かせないことを教えてくれる。
「デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」(中曽宏監修/山岡浩巳、加藤出、長内智著)金融財政事情研究会
把瑠都のエストニアばかりじゃなかった
2020年9月に発足した菅政権は、2021年には「デジタル庁」を新設してデジタル化政策を加速することを目玉政策の一つにしている。すでに脱ハンコや免許証のデジタル化、マイナンバーカードと免許証の一体化などを検討しているとされ、デジタル化の流れは早くも勢いを増している。
北欧諸国のデジタル化の実態をレポートした本書には、そんな菅政権が取り組もうとしているデジタル化政策のほとんどが述べられている。つまり、何年後かの日本のデジタル社会の姿は、本書を読めば具体的にわかってくるはずだ。
内外の金融財政問題などの調査研究を行っている金融財政事情研究会は2019年9月に「北欧フィンテック・キャッシュレス視察団」が10日間にわたりスウェーデン、フィンランド、エストニアの3国を訪問。スウェーデンではキャッシュレス化、フィンランドではMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、エストニアでは電子政府の実情を、主に視察した。本書では、その報告をまとめている。
この3国をはじめ、北欧各国ではデジタル化の取り組みは早くから始まっており、それぞれの国民に広く浸透している。その中で、エストニアは大相撲の元大関・把瑠都が同国で政界に転じたこともあって、デジタル化の先進ぶりが漏れ伝えられている。
エストニアや他の国々について、本書でその実情に触れると、SF小説のようなことが実際に行われていることがわかり、驚かされることは少なくない。だが同時に、そんなことが日本で可能なのかと疑心暗鬼にもなる。