現代では技術は成熟し、市場は平均化して、モノづくりやサービス提供で均質化が進んでいる。そうした中で、消費者が商品やサービスを選ぶ際に、品質や機能性と合わせて、それらがもたらしてくれる豊かさや満足度を重視するようになっている。
そこで大きな役割を果たすのが「デザイン」だ。本書「経営とデザインのかけ算 企業を進化させる『デザイン思考』と『ブランディング』」は近年、新時代の経営手法として注目されているという「広い意味のデザイン」を紹介。コロナ禍のような困難に向かい突破口を開く一助になる可能性を秘めているらしい。
「経営とデザインのかけ算 企業を進化させる『デザイン思考』と『ブランディング』」(尾崎美穂著)合同フォレスト
勝ち組企業は創業者がアートやデザインに精通
デザインは、商品やサービス開発で、競合会社との差別化を図るだけに役立つばかりではない。今の企業の課題である人材集めや社員の定着化を進めるうえで重視される、共感を得られような「会社のあり方」を示すためにも、経営手法としてのデザインが欠かせないという。
技術の成熟化、市場の平均化がいち早く到来した米国では、業種を問わず各企業が競ってデザインを経営手法に採り入れている。GAFAと総称される4社は、デザインの強みがあり、世界各国で大きなシェアを獲得して、人材をそろえることでも成功している。
GAFAのほかにも、ビジネスコミュケーションツール「スラック」で快進撃を続ける米スラック・テクノロジーズや、家電メーカーの英ダイソンなどもデザインを糧として世界レベルの成長を果たしたとして、本書ではアップルとともに紹介されている。
アップルやスラック、ダイソンは、創業者がいずれもアートやデザインに精通しており、そのことが強みとなって成長を加速した。創業者の考え方やセンスが製品、サービスの(狭義の)デザインへの反映はもちろん、共感を呼ぶ製品コンセプトや、独創性のなかに秘めた調和性を可能なり、市場で広く支持を集めた。
企業はデザインの重要性に気づきはじめた
本書の著者、尾崎美穂さんは、経営コンサルティングの株式会社and D.consulting(アンドディーコンサルティング)を経営するデザイン経営コンサルタント。以前に勤務していた会社が経営難に陥り、閉鎖目前となったところで経営を託され、フリーランスのデザイナーとして働いていたときに得たデザインの知見を生かし、その力を活用して会社を舵取り。その後3年で「V字回復」させた経験からデザイン経営コンサルタントの道を歩み始めた。
本書によると、現代では消費者のニーズが「モノからコトへ」とシフトしているという。どういうことか――。
つまり、消費者は商品やサービスを選ぶ際に、機能性の高さはもちろん、それらがもたらす心の豊かさや満足度も重視するようになってきているというのだ。
「技術力の高さを伝えるだけでは消費者の購買意欲は湧きませんし、他社との差別化も難しくなります。商品やサービスに消費者が求める付加価値を与えて『選びたくなる』理由を作り出す必要があります」
こうしたことで成功した代表例がアップルであり、スラックであり、ダイソンだ。だが、経営者の誰もが「アートやデザインに精通」しているわけではない。だから、デザインが経営にとって重要であることに気づいた企業は、外部からデザインの素養を導入しようとデザイン会社の買収や資本提携を加速している。マッキンゼー・アンド・カンパニーやアクセンチュア、アドビシステムズなどが、その代表例だ。
日本の経営者は認識薄く......
これらはいずれも米国の企業だが、世界の有力企業はいま、デザインを戦略の中心に据えているという。日本の企業のデザインへの取り組みとしては、博報堂が、「デザイン思考」で世界的に知られるデザインコンサルティング企業、米IDEO(アイディオ)に出資したことが知られるが、日本の経営者は往々にしてデザインが有効な経営手段であるということを認識しておらず、グローバル競争のなかで後退要因の一つになっている。
そうした状況をみて、著者が黙っていられず立ち上がり、著したのが本書。日本の企業もデザインを重視し経営に取り入れるべきと理由と、日本の会社でデザインを経営に採り入れるための具体的な手法について解説した。
多くの企業にとって2020年はコロナ禍で、困難に直面した企業も少なくない。著者によれば、コロナ禍のような「今までの常識や経験だけでは解決できない困難」に直面したときには、「デザインを経営に生かす」という手法は有効であり、危機を乗り切る突破口が開ける可能性をある。
「経営とデザインのかけ算 企業を進化させる『デザイン思考』と『ブランディング』」
尾崎美穂著
合同フォレスト
1500円(税別)