新型コロナウイルスに対応するニューノーマルな社会に対応するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)が世界的に注目されている。しかし、DX=単純なデジタル化ととらえた結果、成功事例が少ないのが実情だ。
本書「マーケティング視点のDX」は、デジタル化に加えて顧客視点とデータ活用、つまりマーケティングの視点が必要だと説いている。DXに必要な考え方や富士フイルム、ウォルマートなど国内外の成功事例を多数紹介している。さまざまなフレームワークとワークシートも付いているので、すぐに活用できそうだ。
「マーケティング視点のDX」(江端浩人著)日経BP
デジタル化とDXは違う
2020年9月に菅政権が誕生。デジタル庁の設立に言及したことが追い風になり、DXが旬のキーワードになってきた。
DXをひと言で言えば、デジタル技術を活用したビジネスの大変革のことだ。大量のデータを解析し、デジタル技術をフル活用することで、既存の商品ラインアップ、組織体制、ビジネスモデルを変革して顧客への提供価値を変えること、変え続けることを指す。
デジタル化しただけではDXには当たらない。単なるシステムの導入や業務効率化にとどまり、新たな価値の創出まで至らないからだ。
本書はクルマを例に、以下のように説明している。カーナビや、センサーで衝突を回避する安全技術など、クルマは多数のデジタル技術を搭載して利便性、安全性が高まった。
DX的とも言える進化の方向性として、一つは運転そのものから解放される自動運転。もう一つはクルマをつくって売るモデルから、カーシェアリングなど利用に応じて対価を受け取るモデルへの転換が挙げられる。その発展形がMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス=マース)だ。
国土交通省はMaaSの定義を、「ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を一つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな『移動』の概念」としている。
フィンランドのヘルシンキでは、3つの料金プランで市内の交通機関を横断的に利用できるMaaSアプリが稼働。アプリで現在地から目的地までのルートを検索、座席を予約、そして決済まで完結する。2016年の導入から1年で公共交通機関の利用割合が48%から74%へ増加。自家用車の利用割合が40%から20%に減ったという。
日本では伊豆半島を舞台に、JR東日本、東急電鉄、伊豆急、バス事業者などが参加し、2019年4月から今年3月まで期間限定で何度か実証実験が行われた。
交通渋滞、環境汚染、エネルギー消費の増加という社会課題の解決にMaaSは貢献することになるだろう。ほかのモノ、サービスでも同様の進化が起こると見られる。