バイデン米大統領で世界経済はどう変わる? 「対中強硬策は同じ」「株価はさらに活況に」「TPP復帰は無理?」アナリストが分析

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   民主党のジョー・バイデン氏(77)が米国の次期大統領になることが確実になった。

   バイデン政権が誕生すると世界経済と日本経済にどんな影響を与えるのか。主要新聞が取り上げたシンクタンクの経済アナリストらの分析から探ると――。

  • ホワイトハウスの新しい住人にバイデン氏、世界経済はどうなる?
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「日本企業は戦略を立てやすくなる」

ジョー・バイデン次期米大統領(ウィキメディアコモンズ デビッド・リーネマン撮影)
ジョー・バイデン次期米大統領(ウィキメディアコモンズ デビッド・リーネマン撮影)

   トランプ政権からバイデン政権になると、何が変わるのだろうか。「米国第一主義」を掲げ、何をしでかすかわからなかったトランプ氏と違って、「国際協調」のバイデン氏の場合は、先の見通しがわかりやすくなると強調するのが、小林健・日本貿易会会長だ。日本経済新聞11月10日付の「政策の予見性高まる」で、こう指摘している。

「これまでの『米国第一』から同盟国を重視する国際協調に戻るだろう。TPP(環太平洋経済連携協定)に関しては再交渉のうえで復帰することを示唆している。大歓迎だ。保護主義的な関税引き上げなどは少なくなるだろう。日本は多国間と通商していくことで成り立っているので、2国間ではなく、多国間で仲間を増やすことが必要だ」

   そのうえで、日本はとるべき対応をこう説明する。

「一方、バイデン氏は米国内の産業保護と雇用維持も標榜しているから、それを実現していく過程で日本との様々な交渉が出てくる。ただ、今までと違って政策の予見性が高まり、日本企業は戦略を立てやすくなるはずだ。(強硬的な対中政策は)米国の総意なので、そう簡単に旗を降ろせないだろう。ただ、すべての点で中国と対決するのではなく、妥協、協調できる点は探ると思うので期待している」

   小林氏と同様に、「わかりやすい政権の誕生で世界経済にプラスになる」とみるのが、橋本政彦・大和総研シニアエコノミストだ。朝日新聞11月10日付「不透明感の低下プラス」で、こう述べている。

「トランプ政権に比べ政治の不透明感が低下し、世界や日本の経済にはプラスが大きい。米議会の上院は共和党、下院は民主党が多数を占める『ねじれ議会』となる可能性が高い。バイデン氏が掲げてきたインフラ投資などの政策の規模は制約を受けるが、コロナショックからの回復の後押しにはなるだろう」

   ただし、バイデン政権も政策の実現には苦戦するだろうと予測する。

「逆に、法人増税は共和党の反対で実現が難しくなり、企業にはマイナス面が軽減される効果もある。企業に対する環境規制や金融規制は、トランプ氏が緩めた部分をもとに戻そうとするとみられる。対中関係では、米中摩擦の深刻化など悪化のリスクは減った。融和的な姿勢をとるかというとそうはならない。いまの高関税の撤廃に動く可能性も低いだろう」

国際協調路線が世界経済の安定化をもたらす

   バイデン政権になると、株式市場がさらに活況化するだろうと予測するのは、矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストだ。東京新聞11月10日付「分断から経済波及懸念」で、こう説明する。

「バイデン氏はトランプ政権より感染対策に力を入れると思われ、大規模な財出動に踏み切れば短期的には株式市場が好感するだろう。長期的には、トランプ政権とは対照的に金融規制の強化、富裕層への増税、法人税の引き上げなどを主張しており、企業に厳しい政策と言える。ただ、現在はコロナ感染が拡大しており、すぐに企業に負担を強いる政策はできないだろう」

   また、バイデン氏の「国際協調路線」が世界経済の安定化をもたらすとして、こう述べている。

「バイデン氏は、環境政策やTPP、世界貿易機関(WTO)といった国際協調の枠組みを重視するだろう。長期的には世界経済の安定につながり、日本経済にもプラスに働く。逆に、温室効果ガスの削減などで出遅れる日本にとって、環境政策を重視するバイデン政権の誕生はプレッシャーになるだろう。また、バイデン氏は人権問題を重視する民主党の伝統もあり、中国に経済制裁の可能性を示唆するなど強硬な姿勢をとっている。米中対立の激化は中国経済の減速につながり、日本経済に波及するため懸念される」

   いずれのアナリストたちも、こと中国に関してはトランプ政権同様に強硬姿勢を貫くだろうという点では共通している。

   一方、バイデン氏が掲げる「国際協調」も、トランプ氏の「孤立主義」とそう大差はないとする、冷ややかな見方もある。みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員が朝日新聞11月10日付「保護主義、方向性は同じ」で、こう指摘している。

「トランプ氏はTPPから離脱するなど手法は過激だったが、バイデン氏も国内の製造業を重視しており、保護主義的な方向性に大きな差はない。まずは国内製造業への優遇税制などの支援を進め、就任1年目の来年秋や2年目に通商の議論を始めるのではないか。その際、日米貿易協定の第2段階の交渉を進めると思うが、日本車の関税撤廃には応じないだろう。バイデン氏は同盟国と協調して中国に対抗するとみられ、将来的にはTPP復帰も選択肢の一つだろう。ただ、TPPについては『再交渉する』と話しており、日本の農産物市場の開放のほか、原産地規則の厳格化を求めてくる可能性もあり、厳しい再交渉が必要になる」

というから、日本にとっては決して甘くない政権になりそうだ。

GAFA規制が加速すれば日本に大きなチャンス

   米ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は、バイデン氏の支持基盤が「国際協調」路線の足を引っ張っていると指摘する。読売新聞11月10日付「同盟関係の修復急ぐ」の中で、TPP復帰は難しいだろうとまで述べるのだ。

「バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権時代から、世界は大きく変わった。米国内には中国との関係で、党派を超えて厳しく対応すべきだとの強い合意がある。トランプ政権は中国に関し、各国に『中国と米国のどちらの味方か』というアプローチをとった。バイデン政権は、トランプ政権とは異なる手法で中国に対抗するよう、同盟国に求めるだろう。経済面で言えば、TPPは中国封じ込めという意味ではなく、民主主義国家を連携させる上で重要だ。残念だが、民主党を支持する労働者層が自由貿易に反対しており、バイデン政権がTPPに復帰するのは難しいと思う」
まだ負けを認めないドナルド・トランプ大統領
まだ負けを認めないドナルド・トランプ大統領

   ところで、トランプ政権は大統領選挙直前の10月、司法省がグーグルを独占禁止法違反の疑いで提訴した。米国政府が初めてGAFAの規制に大きく舵を切ったわけだが、この動きはバイデン政権になっても続くのだろうか。安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長は、産経新聞11月10日付「GAFA規制加速の可能性」の中で、この流れは止められないと予測する。

「GAFAなど巨大IT企業への規制強化の流れは今後も続くだろう。ただ実際に(バイデン政権の)米国がどこまで踏み込んだ対応をとるか見通せない。規制強化によってGAFAの提供するサービスの質が低下するようならユーザーの反発を招く恐れがあるほか、急成長する中国IT大手の後塵を拝することになりかねないからだ」

   しかし、日本にとって大きなチャンスになりうるとして、こう述べている。

「ただ、ビジネスモデルの見直しを迫るような規制や、GAFAの分割が行われれば、デジタル経済のありかたが根本的に変わる。後れをとる日本にとっては巻き返しの糸口となる可能性も秘めており、ゲームのルールが変わる状況を見極め対応していくことが重要だ」

(福田和郎)

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