国際協調路線が世界経済の安定化をもたらす
バイデン政権になると、株式市場がさらに活況化するだろうと予測するのは、矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストだ。東京新聞11月10日付「分断から経済波及懸念」で、こう説明する。
「バイデン氏はトランプ政権より感染対策に力を入れると思われ、大規模な財出動に踏み切れば短期的には株式市場が好感するだろう。長期的には、トランプ政権とは対照的に金融規制の強化、富裕層への増税、法人税の引き上げなどを主張しており、企業に厳しい政策と言える。ただ、現在はコロナ感染が拡大しており、すぐに企業に負担を強いる政策はできないだろう」
また、バイデン氏の「国際協調路線」が世界経済の安定化をもたらすとして、こう述べている。
「バイデン氏は、環境政策やTPP、世界貿易機関(WTO)といった国際協調の枠組みを重視するだろう。長期的には世界経済の安定につながり、日本経済にもプラスに働く。逆に、温室効果ガスの削減などで出遅れる日本にとって、環境政策を重視するバイデン政権の誕生はプレッシャーになるだろう。また、バイデン氏は人権問題を重視する民主党の伝統もあり、中国に経済制裁の可能性を示唆するなど強硬な姿勢をとっている。米中対立の激化は中国経済の減速につながり、日本経済に波及するため懸念される」
いずれのアナリストたちも、こと中国に関してはトランプ政権同様に強硬姿勢を貫くだろうという点では共通している。
一方、バイデン氏が掲げる「国際協調」も、トランプ氏の「孤立主義」とそう大差はないとする、冷ややかな見方もある。みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員が朝日新聞11月10日付「保護主義、方向性は同じ」で、こう指摘している。
「トランプ氏はTPPから離脱するなど手法は過激だったが、バイデン氏も国内の製造業を重視しており、保護主義的な方向性に大きな差はない。まずは国内製造業への優遇税制などの支援を進め、就任1年目の来年秋や2年目に通商の議論を始めるのではないか。その際、日米貿易協定の第2段階の交渉を進めると思うが、日本車の関税撤廃には応じないだろう。バイデン氏は同盟国と協調して中国に対抗するとみられ、将来的にはTPP復帰も選択肢の一つだろう。ただ、TPPについては『再交渉する』と話しており、日本の農産物市場の開放のほか、原産地規則の厳格化を求めてくる可能性もあり、厳しい再交渉が必要になる」
というから、日本にとっては決して甘くない政権になりそうだ。