米大統領選「バイデン氏勝利宣言」のニュースの洪水に隠れて、新聞各紙とも地味な扱いだったが、2020年11月9日、「みなさまのNHK」らしからぬ振る舞いがマスコミから批判を浴びていた。
受信料を効率よく徴収するためにNHKが総務省に要望していた、テレビを持つ全世帯のNHKへの届け出の義務化の動きが、新聞界や民放各局の猛反対にあい、雲行きが怪しくなったのだ。いったいどういうことか。主要メディアの報道とネットの声を拾うと――。
テレビのない人の届け出義務化まで目論むってアリ?
そもそもNHKが要望している「テレビ設置の届け出義務化」とは何か――。主要メディアの報道を総合すると、ことの発端は今年(2020年)10月16日に開かれた公共放送のあり方などについて検討する総務省の有識者会議分科会だった。
NHKは、家庭や職場にテレビを設置した際に、NHKへの届け出を義務化する放送法改正を要望した。放送法は64条で、NHKの放送を受信できるテレビなどを設置した人に対して「放送の受信についての契約をしなければならない」と定めている。しかし、NHKによると、全国の世帯の約2割は受信契約を結んでいない。未契約者に対して訪問や文書で契約を促しているが、テレビ設置の有無を確認できないケースが多く、訪問をめぐるトラブルも頻発している。また、人海戦術に頼るため、多大な人件費がかかっている。
このためNHKは、
(1)放送法を改正し、テレビ設置世帯に対するNHKへの設置届けの義務化を求めた。
ただし、届け出をしなくても罰則は求めないという。
(2)(1)と同時に、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や、転居した際の住所などの個人情報を公的機関などに照会できる制度の導入を求めた。
具体的には、未契約者について自治体や電気、ガスなどの公益企業に氏名を照会できるようにする。そうすれば、人海戦術によるコストを大幅に減らすことが可能になる。
(3)さらに、テレビを持っていない人にまで届けの義務化まで求めた。
理解に苦しむ要望だが、11月5日の定例会見の場で、前田晃伸NHK会長は「届け出ていただかないと、未設置の人のところにお邪魔するという迷惑なことをやり続けないといけない」と説明した。
さすがに(3)の要望には、分科会のメンバーからも「テレビを持たない人が届け出ないといけないのは、どういうことか。不利益につながらないか」「テレビを持つことに対するプレッシャーになってはいけない」などと批判の声が上がっていた。
こうして迎えた11月9日の総務省の有識者会議分科会。さすがにNHKは猛批判を浴びた(3)の「テレビを持たない人の届け出義務化」の要望を自ら取り下げた。そして、残りの(1)と(2)に対して議論が行われた。NHKはテレビ設置の届け出が行われ、受信契約をしていない人の氏名を公益企業などに照会できる制度があれば、受信料の徴収コスト削減や公平負担につながると主張した。