大塚家具の大塚久美子社長が2020年12月1日付で退任することになりました。15年に創業者で実父である大塚勝久氏と株主総会で経営権を争ったプロキシーファイト(委任状争奪戦)から5年。結局、一度も会社を黒字化させることなく社長の座を退くことになったわけです。
インターネット上では、久美子社長退任報道をさまざまな角度から取り上げた記事がアップされつつあります。戦略の良し悪しを問うもの、親子の争いに凋落の原因を求めるもの......。原因はともかく、同社の業績が5年間好転しなかった理由として複数語られているのは、久美子社長の求心力のなさでした。
典型的なホワイトカラーエリートのお嬢さま
トップの求心力というものは目に見えないものでありながら、組織運営においては最重要といえるマネジメント要素のひとつです。なぜならば、求心力は社員のトップに対する信頼感や忠誠心とイコールであり、社員の組織対するロイヤリティやエンゲージメント、ひいては日々の仕事に対するモチベーションにまで、大きく影響を及ぼすものだからです。
大塚家具の売場の元気のなさを指摘する文章も散見され、まさに求心力の低下が社内のモチベーションを下げていたと言えそうです。
では、なぜ久美子社長には求心力がなかったのでしょうか――。私はこの問いに、3つの理由を指摘しておきます。
ひとつは、社内における求心力の源となる実績のなさです。大塚家具は父・勝久氏が創業し、東証一部上場にまで成長させてきた会社です。お家騒動以前に久美子氏が一時期社長を務めていた時も、社員から見た実質リーダーは勝久氏であったわけであり、同社の組織としての求心力の源は、自社を名だたる企業に育て上げた功績者であり、業界の重鎮たる実績を持つ勝久氏以外には存在し得なかったのです。
久美子氏は一橋大学卒後、数年の銀行勤務を経て同社に入り、経営企画などを担当した後に一度退社。コンサルティング会社設立を経た後、今度はコンサルタント的な立場で会社に舞い戻ったという、典型的なホワイトカラーエリートです。
高卒の叩き上げで、自らリヤカーを引いて家具を売り歩き会社の基礎を作り上げた勝久氏とは、経歴の点では水と油なのです。久美子氏が一流大学卒であっても、卒業後即家業に入り粛々と現場で苦労を重ねてきたか、あるいは業界内同業他社で修行を積んできたならば話は別ですが、父が築いた泥臭い組織風土の中にいきなり頭でっかちなコンサルティング風情のエリートお嬢さまが飛び込んできたわけですから、社員について来いというほうが無理というものでしょう。