新型コロナウイルスの感染拡大は、欧州や米国などでは繰り返して流行の波が押し寄せている。
いまだ先行きも出口のありかもわからないコロナ禍。そうした中にあって、確かな予測や指針に対するニーズが高まっている。本書「人類2.0 アフターコロナの生き方」は、そのニーズに応えて生まれた一冊。
「人類2.0 アフターコロナの生き方」(小林慎和著)プレジデント社
ネット投稿からスピンオフ
著者の小林慎和(のりたか)さんは、株式会社bajji(バッジ)ファウンダー兼CEOで、ビジネス・ブレークスルー大学准教授を務める工学博士。Bajjiは、ブロックチェーンを活用したソーシャルネットワーキングサービスの企画、開発、運用を提供する会社だ。
コロナ禍で増えた、テレワークの受け皿にもなっているコワーキングスペースの運営も行っている。
2020年に世界を襲ったコロナ禍は、日本にとって2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災と並ぶ経済危機の引き金。著者は、東日本大震災の翌年、2012年末に起業したのを皮切りに、国内外でいくつかの会社を起こしてきた。自らの事業を進めていく中で、予想外の危機がいくつも立ちはだかることを経験。そこから危機後の未来を想像し、想像した未来から「いま」なにをするべきか導き出すことを学んだ。
著者は今年4月20日に、その手法より書いた「アフターコロナ世界はどう変わるのか、9つの視点」という未来予想レポートを、クリエイターの活動をサポートするメディアプラットフォーム、noteに投稿。同日に5万人の読者を獲得して、さらにSNSで拡散し、その後1か月半ほどで25万人以上が読んだという。
4月27日午前にパート2を公開。同日午後に出版のオファーが寄せられ、noteの内容を元に加筆・構成されて書籍化した。
デリバリーは食市場「配食」カテゴリーになる
「アフターコロナにやってくるのは『新世界』。もう、元のような世界に戻ることはない」と著者。新世界は、わたしたち人類のバージョンが変わって「人類2.0」になる。
本書は4章に分かれ、「働き方」「ビジネス」「お金」そして「人類」について、バージョン「2.0」、つまりアフターコロナの未来ではどうなっているのかを、データを基にして詳しく論じている。
たとえば、飲食ビジネスについて。外出自粛、非接触が効果的感染予防とされるなか、すでに利用が盛んになっているフードデリバリーが近い将来、外食、中食、内食と並んで「配食」となり、食市場4つの分類で語られるようになる可能性が高いと予測する。
現在の食市場の外食、中食、内食の3分類。全体の市場規模は71兆円で、分類別では外食約26兆円、中食約10兆円、内食約35兆円。デリバリーは外食として集計され、その規模は2018年時点で約4000億円だった。
外食産業は、このところ「GO TOイート」キャンペーンの追い風に乗っているとはいえ、コロナ以前のフル営業ができない店が多い。その分を補うためにデリバリーへのシフトが考えられる。
また、感染拡大の新たな波があって外食産業の営業自粛が続けば市場へのインパクトは数兆円にのぼる。デリバリー市場には伸びしろが大いにあり、著者は通常営業に問題を抱える飲食店が、そこに挑もうと考えるのは当然の流れではないかと指摘する。飲食店営業許可があるとデリバリーが可能で障壁が高くはなくシフトは「店の営業努力次第」ということになる。
コロナを経験したあとの社会では、その便利さから利用がなお増える可能性があり、デリバリー専門店の増加が考えられる。コンビニやスーパーがデリバリフード用のキッチンを設けるなど、専門店と連携することがありそうだ。
1991年のバブル絶頂期には日本全国で約80万軒の飲食店があったが、いまでは約62万軒。その間にはコンビニが店舗数を増やし飲食店の代わりも果たすようになった。同じプロセスがデリバリーでも繰り返されるかもしれない。
著者は、デリバリー市場の拡大に伴いデリバリー専門の許認可制度が整備される可能性にも言及している。そして、食市場で堂々と「配食」カテゴリーが設けられるようになるというわけだ。
「人類2.0 アフターコロナの生き方」
小林慎和著
プレジデント社
1100円(税別)