コロナ禍で置き去りの社会的弱者 知ってる?「電話リレーサービス」日本はG7唯一の未実施国だった(鷲尾香一)

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   新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、政府はさまざまな支援策を実施している。

   しかし、それは新型コロナウイルスの感染拡大で経済的苦境に立たされている人を対象にしたものが多い。いわゆる社会的弱者向けの支援には新型コロナウイルスとは関係なく、必要な支援もある。今回は、「電話リレーサービス」について、考えてみた。

  • 「電話リレーサービス」は聴覚障害者と健聴者を結ぶ(写真はイメージ)
    「電話リレーサービス」は聴覚障害者と健聴者を結ぶ(写真はイメージ)
  • 「電話リレーサービス」は聴覚障害者と健聴者を結ぶ(写真はイメージ)

聴覚障害者と健聴者のコミュニケーションサービス

   電話リレーサービスは、聴覚障害者と健聴者のコミュニケーションのためのツール。オペレーターが手話や文字、音声を同時通訳することで、聴覚障害者と健聴者が会話する。電話への聴覚障害者のアクセスを可能とするサービスとして、すでにG7各国をはじめ、世界 25か国で公的制度として提供されている。

   日本は、障害者が健常者と平等に情報、通信その他のサービスを利用できるように適切な措置を求めた国際連合の「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)を批准している。この条約は2014年2月に発効しているが、G7では電話リレーサービスの唯一の未実施国だ。

   すでに、2018年3月に閣議決定された第4次の「障害者基本計画」で「聴覚障害者が電話を一人でかけられるよう支援する電話リレーサービスの実施体制を構築する」ことが明記されているにも関わらず、未だに実施には至っていない。

   電話リレーサービスにはいくつかの方法があるが、主なものは以下の6つ。

(1)映像による手話発語と音声による発語とをオペレーターが相互に通訳する
(2)文字データによる通信と音声による発語とをオペレーターが相互に通訳する
(3)音声による発語をオペレーターが文字化し文字表示機能付き電話に表示させる
(4)主に発話可能な聴覚障害者等が聞こえる人に音声によって直接話しかけ、聞こえる人の音声はオペレーターが文字化して聴覚障害者等に伝える)
(5)主に言語障害者の文字による発語をオペレーターが音声で聞こえる人に伝え、聞こえる人は音声で直接話しかける
(6)言語障害者等の不明瞭な発語をオペレーターが明瞭な音声で復唱する

   さまざまな方法があるのは、障害者にも手話が得意な人、文字が得意な人、聞こえないがしゃべることができる人、聞こえるがしゃべれない人などがおり、これに対応するためだがこのうち、日本で検討されているのは(1)と(2)の方法だ。

緊急通報ができない!

   じつは、電話リレーサービスは2002年12月から「自立コム」(東京都渋谷区)という民間企業が開始。しかし2004年3月に同社が、採算が取れないことを理由にサービスを中止するなど、いくつかの企業が乗り出したのだが撤退している。

   唯一、プラスヴォイス(仙台市)が2004年から現在もサービスを続けており、利用時間は8時から21時までで、1回あたりの利用料金が330円、使い放題の場合には月5500円となっている。

   また、日本財団は2013年9月から、「電話リレーサービス・モデルプロジェクト」の全国で無料試験を行っており、障害者手帳保有者を対象に8時から21時まで、サービスを提供している。

   通信料は利用登録者の負担だが、通訳料は補助金などで無料となっており、2019年9月時点で約 1万500 人が利用しているが、2021年3月 31日にサービスを終了する予定だ。このほかにも同財団では、全国6か所に「手話フォン」という公衆電話を設置している。

   聴覚障害者等向けには、情報通信研究機構(NICT)が開発した聴覚障害者等と聞こえる人とのあいだを文字と音声の相互変換でつなぐスマートフォン、タブレット端末用のコミュニケーション支援アプリ「こえとら」があり、累計で約19万ダウンロードとなっている。

   また、聴覚障害者等の利用者が自身のスマートフォンやタブレット端末の専用アプリに文字や音声を入力し、固定電話やスマートフォンを利用する聞こえる人との通話を可能とするNTTドコモの「みえる電話」がある。

ただ、「こえとら」も「みえる電話」も通訳速度や使い勝手の問題が指摘されている。

   何よりも問題なのは、こうした聴覚障害者等の電話サービスが警察などへの緊急通報ができないことだ。これはサービス提供側の問題でもあり、警察など通報を受ける側の体制の問題もある。

   聴覚障害者等は健常者よりも日常生活で緊急事態に陥る可能性が高いと考えられ、一方で警察や救急などへの通報ができないのは極めて重大な問題だ。

   政府は日本財団の無料試験が終了する2021年3月末までに、電話リレーサービスの実施を目指している。菅首相は携帯電話料金の引き下げに熱心だが、「電話リレーサービス」のような問題があることを十分に認識し、より早い時期のサービス開始にも力を入れて欲しいものだ。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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