菅義偉首相が臨時国会で初めての所信表明演説を行い、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことが、大きなニュースになっています。
首相指名から1か月以上も待たされた国会デビュー! 「スガノミクス」の看板政策とされる「携帯料金値下げ」「デジタル庁創設」「不妊治療への保険適用」といった具体策をアピールしたものの、メディアの見出しを飾るには至らなかった様子。海外向けに力強く宣言した「あの話題」も、まさかのスルー! 今のところ取り上げるメディアはなさそうです。
菅首相の「国会デビュー」海外メディアの評価はいかに?
待ちに待った菅首相の「国会デビュー」。冒頭の「所信表明演説」は、いったいどんな決意や政治理念を示すのかと注目が集まりましたが、「実務家」を自称する菅首相だけに「実利」を強調する話題が目立ちました。
ところが、「スガノミクス」の看板政策とされる「携帯料金値下げ」や「不妊治療への保険適用」といったネタは大義に欠けていて、「トップニュース」には向かなかったのでしょう。国内メディアのほとんどが「温室ガス2050年ゼロ宣言」を大見出しで伝えると、海外メディアも追随。一夜のうちに、菅政権最大の「目玉政策」になってしまいました。
Japan will become carbon neutral by 2050, PM pledges
(日本は2050年までにカーボンニュートラルになると、首相が宣言した:英紙ガーディアン)
「carbon neutral(カーボンニュートラル)」は、直訳すると「carbon」(炭素)が「neutral」(中立)になる、という意味。何かを生産した時や人為的な行動によって排出される二酸化炭素と、植物の光合成などで吸収される二酸化炭素が同じ量、という状態のことです。
日本はこれまで、環境問題に後ろ向きだと国際的に非難されてきましたから、菅首相が「2050年までに温室効果ガス排出量をプラスマイナスゼロにする」と発言したことは「大きな進歩」だと受け止められたようです。
それでも、国内メディアのような「ご祝儀報道」とは無縁の海外メディア。なかなか甘い評価とはいかないようで、菅首相の「デビュー宣言」をバッサリと切り捨てるメディアも目立ちました。
Japan Pledges Net-Zero Emissions by 2050 Without Clear Roadmap
(日本は2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを宣言したが、明確な計画は示されなかった:米ブルームバーグ通信社)
Net-Zero Emissions:温室効果ガス排出量の実質ゼロ
roadmap:ロードマップ、具体的な計画
確かに、所信表明演説では、目標に到達するための具体的な計画は述べられませんでした。原子力政策を加速するという一部報道もあり、実態は「すべてはこれから」(NHK報道)の様子。さらに、「本当に実現する覚悟なら、2050年ではなく2030年を目標にすべきだ(Asia Times)」と、指摘するメディアもありました。
待ちに待った菅首相の「国会デビュー」でしたが、新リーダーの政治理念を期待した海外メディアにとっては「肩すかし」ぎみだったのではないでしょうか?
来夏の「東京五輪開催」海外メディアはすでに無関心?
「携帯料金値下げ」や「不妊治療への保険適用」といった「スガノミクス」の看板政策が国内外メディアの見出しを飾れなかったことも「残念な感じ」でしたが、私が注目したのは「東京五輪開催宣言」がまったくと言っていいほどスルーされてしまったことです。
じつは、私も「所信表明全文」を読んで初めて知ったのですが、菅首相は、来年に延期となった東京五輪・パラリンピックは「人類がウイルスに打ち勝った証しとして開催する決意だ」と強調していました。
このところ、世界的に新型コロナウイルスの感染状況が急激に悪化しています。強烈な第2波に襲われている欧州では、ドイツやフランスが再びロックダウンに突入。アメリカでは、新規感染者数が1日あたり7万人に迫る勢いで、過去最多を更新しています。
そんななか、東京五輪主催国のリーダーが何を語るのか......。五輪は予定どおり来夏に開催するのか、それとも再延期か。日本はどういったプランを考えているのか。本来であれば、もっと注目を集めるはずの「五輪開催宣言」でしたが、この宣言に触れたメディアは見当たりませんでした。
普段なら、五輪ネタに飛びつくはずのスポーツ専門サイトをサーチしても、所信表明での「五輪開催宣言」はスルー状態です!あまりの無風ぶりに驚きつつ、「これが現実だ」と改めて痛感。コロナ禍で「生きるか死ぬか」の恐怖に怯える人々にとって、オリンピックなど別世界のことなのでしょう。少なくとも海外メディアの関心はすでに薄れている様子です。
何かと地味で話題になりにくい菅首相。東京五輪を契機にインバウンド経済の回復を願う政権にとって、人々の「無関心」は最大の敵ではないでしょうか?
それでは「今週のニュースな英語」は、米ブルームバーグの見出しから「roadmap」(ロードマップ)を取り上げます。日本語でもよく使うワードですが、これを機に「本家本元の使い方」を覚えてみませんか?
Please check the roadmap
(行程表を参照して下さい)
「当初の」という意味を加えます。
Please check original roadmap
(当初の行程表を参照して下さい)
「~のための行程表」を加えると......。
Please check road map for this project
(このプロジェクトの行程表を参照してください)
「策定する」は「develop」を使います。
Please develop clear roadmap
(明確な行程表を策定してください)
前任の安倍首相と比べて「カリスマ性に欠ける」と評した海外メディアもありましたが、実務家を標榜する菅首相が存在感を示すには、実績で勝負するしかないでしょう。目先の人気取り策に邁進するよりも、国民の生活を豊かにする骨太の「roadmap」を示してほしいものです。