まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」問題――。自治体、事業者(企業)、家庭(消費者)それぞれの立場でできることがあり、連携しながらみんなで課題解決にあたることが、最近のトレンド。
そのムーブメントの火付け役にあたり、食品ロスの問題に注力してきた自治体が、福井県だ。全国に先駆けてスタートした「おいしいふくい食べきり運動」では、県内の外部団体との協働で成果を上げてきたが、どのような取り組みを行っているのだろうか。
前回、食品ロスについて解説していただいたジャーナリストの崎田裕子さん(参考リンク:「家庭でできる食品ごみを出さない方法 崎田裕子さんに聞く」(J-CASTニュース 会社ウォッチ 2020年9月30日付)、福井県安全環境部 循環社会推進課 資源循環グループ 企画主査・杉下左和さん、福井県連合婦人会 会長の田村洋子さんとともに、家庭でできる食品ロスの対策を考えていく。
ジャーナリストの崎田裕子さん。東京都内の会議室と福井県庁をオンラインでつないで座談会を実施した。
忘新年会シーズンに実践したい「宴会五箇条」
―― まずは、福井県の「おいしいふくい食べきり運動」について、どんな経緯で始まったのでしょうか?
杉下左和さん(福井県安全環境部循環社会推進課)「おいしいふくい食べきり運動は2006(平成18)年度に始まりました。もともとのねらいは、忘新年会での食べ残しを減らすことでした。宴席ではお酒をつぎに回ったり、歓談したりで、自分の席でなかなか落ち着いて食事ができないものです。それが食べ残しにつながっては、やっぱりもったいない。そこで、食べきり運動を立ち上げ、あわせて『宴会五箇条』を設けました。
適量注文や幹事による食べきりの呼びかけなどに加え、最初の30分と終了前の10分は席を立たず、食事を味わう時間(おいしい食べきりタイム)にしよう、と促しています。また、宴会の場となるホテルやレストランが用意してくださる、地場の食材を使った料理をおいしくいただいてほしい、という願いもありました。そのため、もし残してしまった場合は、自己責任の範囲で、持ち帰って食べきろうと伝えてもらっています。食べきり運動はその後、小売店や家庭にも浸透していきました」
杉下左和さん(左)と田村洋子さん。田村さんは、全国地域婦人団体連絡協議会常任理事も務める。背景に見えるのは、福井県のマスコットキャラクター「Juratic(ジュラチック)」。
―― 食べきり運動を家庭に広めていく際には、県内の13市町に地域組織を抱える福井県連合婦人会(婦人会)との連携が欠かせなかったそうですね。
田村洋子さん(福井県連合婦人会)「私たち婦人会では2013(平成25)年度から、食べきり運動をもっと広めていきたい県の依頼を受けて、業務委託というかたちで、連携しながら啓発活動に取り組んでいます。当初、私たちも知識がなかったので、勉強会を実施。食品ロスに関する統計を見ながら、理解を深めていきました。そのとき、自分たちがふだん、どれくらいの量のごみを出しているか初めて知り、想像以上の食品ロスがあったことに驚きました」
―― 具体的な活動は?
田村さん「活動の主体となるのは、婦人会の会員の中から、立候補で参加する推進員たち。各市町で数人から十数人程度、県全体ではあわせて120~130人ほどが携わっています。啓発活動の柱は、幼稚園や保育園への訪問です。年間およそ50園(昨年度の実績は63園)を回り、寸劇、紙芝居、歌やダンスなどを交えた学習会を行ってきました。幼児を対象にすると、保護者である若いお父さん、お母さんにも話が伝わりやすい、というメリットがあります」
―― 子どもたちが楽しめる学習会になっているのですね。
田村さん「学習会の時間は40分ほどです。場合によっては、保護者にも見てもらいます。家に帰ってからも話題にしてほしいので、食べきりに関するチラシや、アンケートを添えた『お便り』を手渡すこともあります。紙芝居や寸劇では、食べ残して捨ててしまうと、お米や野菜たちが悲しむよ。野菜嫌いの子も多いので、どんな野菜も食べられるようになってほしいな――。そんなメッセージを込めています。ちなみに、私たちも毎回同じ内容ではつまらないので、新しいお話や見せ方を日々考えています。だから、大変なんです(笑)。でも、自分たちが楽しんでいて、保育園や幼稚園に行くのをすごく楽しみにしています」
―― 崎田さんも取材の一環で、学習会を視察したそうですね。
崎田裕子さん「はい。皆さん、とっても楽しそうでした。楽しいなかでも、伝えるべき内容はきちんと押さえ、『今日のことを、おうちに帰ったらお話してね』と呼びかけていたのは印象的でした。子どもって、その日あったことを絶対しゃべりますから。そうすることで、家庭でも食べきりの習慣を広める好循環になったのだと思います。
また、訪問先の先生に話を聞くと、学習会のあと、子どもたちがすごく食べ物に関心を持った、と。それを機に、園内の庭で野菜を育て始め、収穫した野菜を給食で出したら、子どもたちは喜んで食べたそうです。そうやって、食育にもつながっていく。皆さんの学習会が、いろんな刺激を生んでいるなと感じました」
ニチバン協力のもと社会実験を実施 食品ロスは減るか!?
―― 家庭でできる食品ロス削減について、推進員のみなさん同士で話す機会はあるのでしょうか。また、実践していることがあれば教えてください。
田村さん「食品ロス削減について、推進員のみなさんとは定期的に実施する勉強会で話し合ったり、私が登壇する講演会や講習会でお伝えしたりしています。いくつかのポイントがあると思っています。まずは、余った食材の有効活用について。アイデアを出し合ってアレンジ料理を考えたほか、食材をムダにしない使い切り料理の講習会を開催したこともあります。たとえば、煮しめが余ったら、カレーライスの具にアレンジする。ヒジキが残ったら、酢を入れてちらし寿司にしよう、などです(『おいしいふくい食べきり運動』の公式サイトでも、食べきりレシピを公開中)」
―― ふだんの買い物で気を付けることは?
田村さん「衝動買いの防止策として、お腹がすいているときは買い物を控えよう。飴をひとつ、ほお張ってから行こうなどとお話ししました。ほかにも、冷蔵庫の中身の確認を呼びかけています。買い込んでしまいがちな人は、冷蔵庫の中にあるものを書き出して、管理しておくといいですね。福井県では祖父母が農作物をつくっていることも多いので、実家の畑で取れそうな野菜を買うのを控えたいところ。買うにしても、使う分だけにする」
崎田さん「おっしゃるように、冷蔵庫の管理は大事です。関連する話として、環境省が2020(令和2)年3月に発表した報告書によると、2017(平成29)年度の食品廃棄物(いわゆる、生ごみ)に占める『食品ロス量』は34.9%と推計されています。内訳を見ると、(1)買い過ぎや消費期限・賞味期限切れなどによる『直接廃棄』が12.5%。(2)野菜の皮のむき過ぎといった、まだ食べられるところも取り除いてしまう『過剰除去』が8.3%。(3)作ったけれど、結局食べなかった料理等も含む『食べ残し』が14.1%でした。冷蔵庫の管理によって(1)はもちろん、(3)の場面でも適切に冷凍保存して食べきれれば、食品ロスや食品廃棄物を減らせると考えています」
ニチバンの「ワザアリテープ」。複数のカラーバリエーションがあるのも便利。かわいらしい柄付きも人気だ。
―― いま食品ロス量の話が出ましたが、福井県と婦人会では近く、粘着テープメーカーのニチバンの協力のもと、食品ロスに関する社会実験を行うようですが、どんな内容になるでしょうか。
杉下さん「今年(2020年)12月と年明け(2021年)後の1月にかけて、ニチバンの『ワザアリテープ』を使ったモニター調査を行います。『ワザアリテープ』を使う場合とそうでない場合とで、それぞれ一週間ずつ、モニターとなる各家庭から出る、作ったけれど食べきれずに捨ててしまった食品(食品ロス)の量は変わるか、計量して調べたいと思っています。参加者の感想や意見もぜひうかがいたいです」
田村さん「婦人会を通じて参加者を募集していますが、おそらく世帯構成にそれほどの偏りはなく、最終的には50~60世帯が協力してくれると思います。これを機に、私や推進員のメンバーも『ワザアリテープ』を使ってみましたが、なかなかのすぐれモノですね」
―― 実際に使ってみていかがでしたか?
田村さん「『ワザアリテープ』は何色かあるので、その色を生かしたらどうか、とみんなと話しました。たとえば、肉類なら赤、野菜類は緑にして使い分ける。または、先に入れておいたものと、後から追加したものとで、テープの色を変えてもいいな、と。各家庭でルールを決めて、使いやすいようにすればいいですね」
杉下さん「保存が効く冷凍食品などに限りますが、開封した日を忘れがちですよね。そういうとき、封止めしたあと、テープの上に油性ペンで開封日を書いておけば便利だなと思います」
田村さん「そうそう。貼って剥がせるのがいいところなので、メモを書いておいて、重ね貼りや並べ貼りをしてもいいですね。多少、水に濡れても問題なさそうですから、そのあたりも心強い。こんなふうに、使いこなし方を研究するのも楽しそうです(笑)」
全国に広がる「食べきり運動」 自治体関係者の共感を得る
崎田裕子さん、田村洋子さんともに「家庭での食品ロス削減には、冷蔵庫の管理が大事」だと強調する。
―― 福井県が注力してきた食べきり運動ですが、2016(平成28)年度に「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」を立ち上げ、現在では全国の自治体との連携が進んでいます。
崎田さん「当時のことを説明すると、協議会を立ち上げた前年にあたる2015(平成27)年11月、全国の自治体、企業、団体、関係省庁が集まる『3R推進全国大会』が福井県で開かれ、私も主催団体のひとつ『3R活動推進フォーラム』の副会長として関わっていました(3Rとは、リデュース、リユース、リサイクルのこと)。
このとき、食品ロスをテーマとしたパネルディスカッションのコーディネーターを務めましたが、福井県での熱心な取り組みの紹介があったあと、自治体みんなで食品ロスの取り組みに関するノウハウを共有したい、全国でネットワーク組織をつくろう、と呼びかけがありました。そのとき、全国各地にある地場の食材に感謝しながら、しっかり食べきり、捨てるものを減らそうと、食料のライフサイクル全体を視野に入れた考え方がとても好印象でした。だから、その場にいた自治体関係者は共鳴して、設立に向けた話がすぐに進んでいったのだと思います」
杉下さん「各自治体では、独自に食品ロスや食べきり運動に取り組んでいるという背景があって、それぞれのノウハウを共有すれば、みんながもっと取り組みやすくなるのではないか、と考えたのです。福井県が事務局となって設立して、崎田先生には会長となっていただきました。以来、参加する自治体は増え、2019年10月に食品ロス削減推進法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が施行されてから、さらにそのペースは加速しています。2020年10月現在、47都道府県と426の市区町村が参加しています」
崎田さん「食品ロス削減は、自治体、事業者(企業)、家庭(消費者)それぞれの立場でできることがあります。そのとき、自治体の大事な役目が各関係者をつなぎ、旗を振ることです。ところが自治体のみなさんは、具体的な仕組みづくりや伝達の仕方などで、悩んでいるケースも多いと聞きます。全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会の存在は、さまざまな知恵を共有する良い機会になっているのではないでしょうか」
―― 10月30日の「食品ロス削減の日」の認知度も高まり、食品ロス削減の取り組みは今後ますます加速していきそうです。
杉下さん「そうだと思います。自治体としてできることは限られているなかで、婦人会、それから消費者団体、飲食店など事業者の方々とうまく連携すれば、食品ロス削減に貢献できる余地はまだまだある、と実感しています。家庭では身近なこと、できることから始めてみては。私たち自治体も広報の仕方を工夫しながら、みなさんが取り入れやすい活動を推奨していけたらなと思っています」
田村さん「食品ロス削減は家庭から――。私たちはそう思っているのですが、そのときに大事なのはやっぱり、冷蔵庫の見直し。自分の家に見合ったサイズの冷蔵庫を使ってほしいです。冷蔵庫が大きいとモノを詰め込めてしまいますが、小さければ余るほど入りませんからね。これまでを振り返ると、私たちの強みは県との連携でした。婦人会は全国にあって、私が招かれた講演では、自治体の関係者に向けて『婦人会を大いに利用してください』と話したことがあります。良好な関係で活動する自治体が増えれば、食品ロス削減に限らず、暮らしやすい地域として発展していくと信じています」
崎田さん「杉下さん、田村さんのお話から、福井県(自治体)だけでできなかったことを、関心のある婦人会のみなさんに相談して、一緒になって取り組んだのは理想的なご関係だったと思います。本日の座談会は『家庭』がテーマでしたが、福井県では飲食・小売店の方々とも『食べきり協力店・応援店』登録制度で協働するなど、あらゆる方面に気を配っているところもすばらしい。また、楽しく、具体的で、効果が見える活動が、食品ロス削減を促します。ですから、実施予定の社会実験では、初回で手探りの部分もあると思うのですが、今後に生かせる具体的な成果やデータの取得にも期待しています」
※「ワザアリ」はニチバンの商標です。
崎田 裕子(さきた・ゆうこ)
全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会 会長
1974年、立教大学社会学部卒業。11年間雑誌編集者を務めたのち、フリージャーナリストに。生活者の視点で社会を見つめ、近年は環境問題、特に「持続可能な社会・循環型社会づくり」を中心テーマに、講演・執筆活動に取り組む。環境省登録の環境カウンセラーとして、環境学習推進にも広く関わる。NPO法人新宿環境活動ネット代表理事。環境省「中央環境審議会」委員、資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会」委員、経済産業省「産業構造審議会」臨時委員等。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「街づくり・持続可能性委員会」委員。「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」会長