少子高齢化やグローバル化に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、働き方や雇用の変化の波が、大きく激しくなる可能性が指摘されている。
しかし、そのコロナ禍の中でも変わろうとしない会社もあり、そんな勤務先に嫌気がさしている人が増えているとも。本書「サラリーマンかフリーランスか『どちらが得だった?』は、テレワークなどで勤務に自由度が増し、自分自身で仕事のさまざまを変えることが可能なフリーランス志向の高まりに応えたタイムリーな一冊だ。
「サラリーマンかフリーランスか『どちらが得だった?』」(山田寛英著)中央経済社
好きな仕事をしていいはず...
著者の山田寛英さんは、公認会計士、税理士。大学卒業後、監査法人で不動産会社や証券会社を中心とした会計監査実務経験し、税理士法人で個人向け相続対策や申告実務に従事したキャリアを持つ。
本書は、新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が緊急事態宣言を発令した2020年4月から執筆しはじめ、県をまたぐ移動制限が解除された6月に書き終えたという。コロナ禍で変化する働き方を目の当りにして思ったことを、こう述べる。
「在宅勤務、ジョブ型雇用が増えていくなか、成果を残すことができるならば自分の好きな場所で好きな仕事をしていいはずです。たとえば、自然がいっぱいで空気がきれいな場所に住んで新鮮な魚を食べ、朝と夕には海にサーフィンをしにいく。大富豪でなくてもそんな生活を楽しんでもいいはずです」
続けて、「変えることができるのは自分自身だけであって『フリーランスを選ぶ』というのも一つの解なのです」とも。本書のタイトルは「どちらが得だった?」だが、中身はフリーランス推しだ。
2人の人物の会話で構成
本書は、2人の人物の会話で構成。一人は「給料が上がらず何か副業を始めようとしているが、会社を辞めてフリーランスになるのがまだ怖い」という「野口くん」。もう一人は、野口くんの先輩のフリーランスで、コンサルティング会社社長の「渋沢さん」。渋沢さんは公認会計士や税理士の資格を持っている。
フリーランスというと、楽器の演奏者やライターなど個人事業主を指すことが一般的だったが、いまでは個人事業主というくくりから、従業員1人以下の中小企業の社長らも「フリーランス」と呼ばれる。
起業のプロローグ部も、フリーランスと重なる。
本書では野口くんの給料が上がらないことから、副業をステップにフリーランスへと展開していくが、サラリーマンからフリーランスへの転身を考える際に最大の問題は「稼ぎ」だ。
給与所得者の平均年収とほぼ同額の440万円を例として、渋沢さんがフリーランスで同額を稼ぐことをテーマに話しをする。
会社に勤務して年収440万円の場合、会社がその従業員にために支出している金額はそれにとどまらない。社会保険料の会社負担分(給料の約15%=約60万円)などがあり、少なくとも約500万円となる。退職金や家賃補助などの福利厚生があれば、その分も加えることになる。
フリーランスになれば、500万円に加えて諸経費を稼がねばならない。事務所や店舗の家賃、電話料金、水道代に交通......。小売業なら仕入れ資金やスタッフの給料などの運転用の金も必要だ。
開業時には賃貸物件に付随する敷金や礼金がいるし、設備のための資金もいる。内装の工事にも金がかかるだろう。
(中見出し)
稼ぐ目安は、事業の利益率で変わってくる。利益率20%の商売で利益を500万円残そうとすると必要な売り上げは2500万円。利益率80%なら売り上げは625万円とグッと下がってくる。
野口くんは、渋沢さんの説明にだんだんと腰が引けてくる感じだが、渋沢さんは「近年、インターネット、そしてスマホの普及により状況が変わってきた」と転じる。インターネットがあれば事務所も店舗がなくてもモノやサービスを扱うことができ、準備資金も不要だ。アイデアによっては利益率80%のビジネスも以前ほど困難ではない。
本書は、稼ぎや社会保険の対応などについて述べた「起承転結の起」を筆頭に以下、「承」「転」「結」と続く4部構成。「承」では税金、「転」では経営のハンドリング、「結」では取引先や銀行などとの付き合い方などが、テーマだ。
著者の山田さんによると、サラリーマンからフリーランスの世界に飛び込むときの足かせになっているものの一つに、税金や社会保険、法制度のわかりにくさがあるという。
本書では、2人の登場人物の会話により進行することもあり、専門用語を少なくしイメージで捉えられる流れでわかりやすくなっている。
「サラリーマンかフリーランスか『どちらが得だった?』」
山田寛英著
中央経済社
税別1500円