就職した会社で「勤め上げる」文化は、もはや過去のものとなっている。さまざまな転職支援サイトなどの調査では、若い世代の転職志向は6~7割に達しており、会社を辞めることがマイナスなイメージではなくなった。
そこで、就職・転職のジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワークが、会員ユーザーの口コミ投稿から調査した「退職者が選ぶ『辞めたけど良い企業ランキング』」を2020年9月16日に発表した。いわば「卒業生」による、元いた職場のオススメランキングである。
退職後に「マッキンゼー・マフィア」として君臨
「OpenWork」は、主に社会人の会員ユーザーが自分の勤務している企業や官庁などの口コミ情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイトだ。会員数は約340万人(2020年1月時点)という。「年収・待遇」「職場環境」「社員の士気」「社員の育成」「風通しの良さ」など8つの項目で、自分の会社を評価して投稿する。今回の調査では、投稿されたクチコミのうち「退職者」による評価に限定、「退職者からの評価が高い企業」を集計した。「辞めたけど良い会社だった」と退職者から評価される企業にはどんな特徴があるのだろうか。
その結果、上位10社のうち7社に外資系企業が並んだ=下表参照。1位は米国に本社を置く世界的大手コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社。2位は情報通信の超大手GAFAの一角グーグル。3位は米国に本拠を置く世界最大の一般消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)、4位はマッキンゼーのシカゴオフィスから独立、世界的コンサルティングに成長したA.T.カーニー。5位は日本の人材活用支援の最大手、リクルートホールディングスだ。
6位は専門家によって構成された経営支援・M&Aアドバイザリーのフロンティア・マネジメント、7位は米の巨大金融グループ、ゴールドマン・サックスの証券部門であるゴールドマン・サックス証券、8位はエジソンが創立した多国籍巨大複合企業のGE(ゼネラル・エレクトリック)の日本支社であるGEジャパン、9位は日本の官公庁である特許庁、10位は米ボストンに本社を置くコンサルティングのボストン・コンサルティンググループだ。
1位のマッキンゼーは「元社員」に著名な起業家や経営者、経済評論家、政治家が多いことでも知られ、政財界に「マッキンゼー・マフィア」として君臨する。大前研一(経済評論家)、勝間和代(同)、川鍋一朗(日本交通会長)、南場智子(ディー・エヌ・エー会長)、西直史(マクロミル取締役)、保田朋哉(クックパッド執行役)、茂木敏充外相らそうそうたる顔ぶれがいる。
たとえば、小池百合子都知事の1期目(2016年)、小池知事がつくった東京都政改革本部(現在は解散)にはブレーンといわれる特別顧問・特別参与が計13人いたが、そのうち5人がマッキンゼー出身者で、「時給7300円も支払っている」とメディアで叩かれたほどだった。
「社内での出世より退職後にブランドをどう活用するか」
そんな「マッキンゼー・マフィア」入りまで見すえるキャリア設計を考えているのか、退職者からの口コミからは退職自体にマイナスイメージがまったくなく、むしろ「卒業」として賞賛される組織風土であることがうかがえる。
こんな案配だ。
「(辞めたのは)数年間やって、ある程度初期の目標・目的は達成できたと考えたから。入社の目的が、その後の目標達成のための手段に過ぎなかった」(コンサルタント、男性)
「マッキンゼーで出世するのではなく、退職後にブランドをどう活用するかが重要な会社なので、社員は基本どう辞めるかが重要です」(コンサルタント、男性)
「十分修行が済んだので。全員がいつかは卒業する前提で働いています。転職して成功している先輩や同期を見ているので、退職にマイナスイメージはありません。パフォーマンス理由で辞めるケースもありますが、世間では思われているほど多くはないです」(コンサルタント、男性)
「卒業後にさまざまな業界で活躍する人材が多く、そうした人たちがマッキンゼー・マフィアと呼ばれて大きな影響力を持っていることは知っていた。そのアラムナイコミュニティー(編集部注:企業の離職・退職した人の集まり)に入れること自体が、この会社に入社することの意味の一つでもあると感じる」(コンサルタント、男性)
「ザ日本企業」の総合商社は「飛躍のために辞める」
さて、外資系企業がトップ10のうち7社を占める結果となったが、30位にまで目を広げると、日系企業の中でも特に離職率が低い総合商社が2社入っている。三井物産(15位)と三菱商事(21位)だ。
厚生労働省の調査(新規学卒就職者に離職状況=2015年4月入社)では、新卒の入社3年目までの離職率は約3割であるのに対し、総合商社は非常に低く数%程度となっている。いったいどういう理由でランクインしたのか。口コミから理由を探ると、良い会社だったと振り返る半面、転職したくなる問題点もあったようだ――。
まず、三井物産から。
「外資系銀行やコンサルティングなどと比べると、若手の成長スピードは遅いと言わざるを得ない。新卒時は、たとえ順番が回ってくるのがかなり先になっても、大きな仕事をできればよいと考えていたが、大学同期など周囲では若いうちにチャンスをつかむ人間が増えており、今のままでよいのか疑問に思った」(コーポレート、男性)
「実力のない20代前半はゆとりを持ちつつも多種多様な現場、研修、海外派遣などを通じて一気に成長することが出来るが、後半からは部署や配属によってはやれる仕事も大きく変わる為、成長機会や速度が制限されることも多々ある。自分の希望と違ったり、意義はあるが成長機会ややりがいや組織体制が限られた仕事を担当したりする場合は、モチベーションを保つのが難しく成長速度も限られる」(非管理職、男性)
三菱商事の場合はこうだ。
「下積み期間が長く、今の若い世代とは考え方が合わない。現社長は実力主義であり、若手からどんどんポストを与えたいと思っているが、ポストの需給がマッチしておらず、裁量権のある仕事をできるまでには時間がまだかかる。今後のポスト増加、実力主義の風土などの条件がそろえばそのような状況にもなるはずだが...」(コーポレート、男性)
「安定、高待遇、ワークライフバランスを考えると、日本でもトップクラスだと思うが、『ザ日本企業』であるが故に年功序列や官僚組織の風土が色濃く、社内調整や上司の顔色を伺う場面が多い」(営業、男性)
「社内転職制度であるチャレンジポストなどの制度はあるが、なんだかんだと引き続き縦割りであり、(入社時についた)背番号が変えづらいなど、仕事に変化をもたらしづらいと考えたため。事業会社への出向もポストとしての位置付けが強く、年功序列で配属されているのが実態と感じる」(営業、女性)
やはり、「ザ日本企業」独特の「年功序列」や「縦割り官僚主義」に耐えられず、新しい世界に飛び出した人が多いようだ。
なお調査では、OpenWorkに退職者からの投稿が10件以上ある3976社の合計12万3557件の口コミを対象にデータ化した。
(福田和郎)