「カスタマー(顧客)ハラスメント」(カスハラ)をご存じだろうか。暴言や土下座の強要など、お客からの悪質なクレームや理不尽な迷惑行為をいう。
新型コロナウイルスの感染拡大によるストレスの増加で、「カスハラ」の被害を受けるサービス業や小売業の従業員が増えているため、厚生労働省は「カスハラの対応マニュアル」の策定に乗り出した。 ネット上では、
「対策が遅すぎる」
「クレーマー規制法を作って厳しく取り締まるべきだ」
などの怒りの声が上がっている。
コロナのストレスを店員にぶつける悪辣な客たち
共同通信(2020年10月18日付)の「カスハラ対応マニュアルを策定へ 厚労省、企業向けに来年度」など、主要メディアの報道をまとめると、厚生労働省は18日、来年度(20201年度)にカスタマーズハラスメント(カスハラ)企業向けの対応マニュアルを策定する方針を決めた。
背景には新型コロナウイルスの感染拡大後、巣ごもり現象や不況の深刻化などによるストレスの増加で、店員に対するクレーマーが増えていることがある。従業員が精神疾患を発症するなど深刻な被害も起きており、国が標準的な考え方や現場対応策を示す必要があると判断した。来年度概算要求に1700万円を計上、対処方法や被害者ケアも周知する。
今年6月、働き方改革の一環として、職場の「3大ハラスメント」撲滅を掲げる「女性活躍・ハラスメント規制法」が施行された。「セクハラ」「パワハラ」「マタハラ」(妊娠・出産ハラスメント)の3つのハラスメントについては、厚労省はすでに対応マニュアルを策定している。
しかし、「第4のハラスメント」である「カスハラ」については、同法の指針で雇用主に個別のマニュアル策定を求めるだけで、まったく企業任せだった。中小・零細企業を中心に「どう対応したらよいかわからない」と、具体的な基準や対応方法を国に求める声が強かった。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、これまでも「カスハラ」問題をたびたび報じてきた。2018年1月25日付「接客業を悩ます悪質クレーム(前編)『バカ』『死ね』『辞めろ!』 『お客様』の驚きの実態」や2018年1月26日付「『接客業を悩ます悪質クレーム』(後編)インタビュー『1人で背負わずチームで対応しよう』」、2019年7月16日付「迷惑客は『神様じゃなく犯罪者』サービス業労組がオモシロ啓発動画公開」などがそれ。店員を自殺や精神疾患になるほど追い詰める悪質なクレーマーの実態や、そんなクレーマーを見事に撃退する方法を伝授する動画などを紹介してきた。
8年使った炊飯器を「買った時から不良品だ!」と怒鳴り込む
しかし、コロナ禍によってクレーマーの横行がますますひどくなっている。ネット上では、こんな怒りの声があふれている。
碓井真史・新潟青陵大学大学院教授(社会心理学)が、こう呼びかけた。
「誰に対しても、誹謗中傷や強要、人権侵害は許されません。どのような立場でも、自分が正しく相手が間違っている場合でも同様です(カスハラをする人は、自分は正しく、クレームは正当だと思い込んでいます)。残念ながら、人間関係能力が劣化している人々が増加しています。余裕のある苦情処理係なら、彼らの心を癒しつつ毅然として問題を丸く納めますが、弱者である店員個人にはできないことも多いでしょう。厚労省や警察力、そして社会全体で働く人を守らなくてはなりません」
サービス業や小売業の現場で働く人からは、こんな切実な訴えが多かった。
「数十年、お客様商売をやっています。言うべきことは言いますが、相手がご病気なのかわかりませんが、難しいお客様が最近のコロナ禍で相当増えました。対応策は皆無に等しいです。警察に訴えてもムダです。警察は具体的な脅しや暴力や器物破損など、明らかに法に触れる行為がなければ相手にしてくれないです」
「私は家電量販店に勤めていますが、最近、本当にクレーマーが多いです。日々のストレスのはけ口に店にやってくるので、たまったものじゃないです。8年使った炊飯器を、買った時から調子が悪い、不良品だ!と怒鳴り込んできた時は唖然としましたよ」
「確かにストレスのはけ口になる相手を狙ってやってくる。私も狙われている気がする。私が窓口の当番の時にサービスについてのクレームを受けることが多くて、受けたクレームは連絡用のノートにすべて書いていたが、他のスタッフに自分の当番のときはそんなクレーム来たことないとよく言われていた」
クレームが続いて精神的におかしくなる人が多い。
「私の会社でも接客業向きの明るい優秀なスタッフが、クレーマーというかストーカーのような客の対応にやらされて退職した例がいくつもある。クレーマーも、そういう相手にしてくれる従業員に粘着するから狙われたら厄介だ」
もっとも、こんなタフな従業員もいる。
「私の会社に以前、謝るのが専門みたいな人がいたな。従業員が客から理不尽なクレームを受けるとすぐ代わりに対応して、謝りつつその客の要望を一切聞き入れないということができる人だった。役職が高い人だったし、相手に理解を示しつつ大げさに謝罪する姿勢がいいのか、彼に代わると短時間でクレームが終了した。『謝罪だけで済む仕事なんて楽なものだ』がその人の口癖だった。今はその人が定年退職してクレーム処理大変になったけど...」
(福田和郎)