コロナ禍でも堅調に推移する不動産セクターがある!?(中山登志朗)

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   前回は、コロナの影響を受けて市場が大きく縮小したホテル・旅館など観光用不動産と、新築市場での供給縮小について解説しました。

   2回目は、コロナ禍でも市況に影響が少ない不動産セクターがあるのか、解説します。

   「コロナ禍でも市場が縮小していない」とは、意外に思われるかもしれませんが、じつはこれもコロナの影響で、移動(外出)自粛やテレワークが実施されたことによって、自宅に居ながらにして買い物するという「巣ごもり消費」が話題になりました。この「巣ごもり消費」に関係が深いのが、物流セクターです。

  • 物流センターの市場は広がっている(写真はイメージ)
    物流センターの市場は広がっている(写真はイメージ)
  • 物流センターの市場は広がっている(写真はイメージ)

「巣ごもり消費」で市場が拡大したセクター

   コロナ禍以前、大消費地である都市圏への配送が効率的に実施できる物流の仕組みが構築されていました。ところが、コロナ禍によって都市の規模にかかわらず、多くのオンライン・ショッピングやテレビショッピングの需要での物流量が新たに生まれ、配送網の再整備・強化と物流の拠点である倉庫や配送センターなどの設置が急務となりました。

   物流は生産地から消費地周辺までの長距離輸送に加え、大きな物流拠点から中小の拠点への配送、そこからユーザー宛の配送と、きめ細かくルートを構築する必要があり、配送する商品の数が短期間で増えれば、それだけ大小それぞれの拠点を増やさなければ対応できないのです。

   実際に大きなインターチェンジの周辺や街道が交差する地域で、相応に広さがあるところは、この数か月で次々と倉庫や配送センター、取次センターに変わっており、物流についてはコロナによって市場が縮小するどころか拡大したセクターと言えます。

   住宅関連で業績が安定拡大しているのはリフォーム、リノベーションです。

   住宅買い替え需要がコロナの影響で縮小する代わりに伸びているのがリフォーム業界というわけです。住宅売却を延期・中止して、テレワーク用のスペースを作ったり子どもの勉強スペースを設けたりするなど、「働き方」を変えることによる生活の変化に対応するため、間取りを変更するケースなどが増えています。

   今後、テレワークが定着し、在宅勤務を継続する就業者が増えれば、住宅の買い替えが減ることによってリフォーム需要が相対的に伸びていく可能性があります。これは企業にとっても、オフィススペースの縮小や交通費や光熱費、通信費の削減などのメリットが少なくないことから、企業の規模にかかわらず、業種・業態によってテレワークの導入が確実に進んでいくと考えられます。

   特に100万円以上のリフォームについては、住宅ローン減税と同様に控除の対象(工事後の床面積が50平方メートル以上であることなど詳細な条件があります)となることも、リフォームに需要が向かう要因の一つと考えられます。

   現在の住宅ローン控除は、自らが住む「新築住宅の購入」および「中古住宅(国は既存住宅と表現しています)のリフォーム」を対象としており、中古住宅を購入するだけでは対象となりません。条件を満たせば13年に及ぶリフォームローンの控除が受けられるため、需要を喚起している側面もあります。

賃貸セクターもコロナの影響は限定的

   さらに、賃貸セクターについてもコロナの影響は限定的と言えます。

   前回(2020年10月13日付「コロナ禍で打撃を受けた不動産セクター 足元の状況はどうなっているのか!?」)のコラムでお伝えしたように、LIFULL HOME'Sの「借りて住みたい街ランキング緊急調査」では、賃借人の意向がやや郊外方面に向いているという結果が明らかですが、これは賃貸のユーザーがどこのエリアで数多く検索したり問合せしたりしているかをランキングしたものであり、実際に住み替えた結果を示したものではありません。

   つまり、コロナ感染症のリスクを下げたり、テレワークになって都心近郊に住み続ける必要を感じなくなったり、景気悪化による収入の減少を想定して郊外方面の物件を探したりする意向は顕著ですが、それが実際の動きとなって表れてはおらず、現状では賃料の低下や賃借人の減少などは発生していません。

   ただし、これまで順調に転入超過(首都圏近郊に転入してくる人の数が転出する人の数を上回る状況)を続けて人口の「社会増」を背景に順調に運営してきた賃貸セクターも、ここ数か月は移動人口が転出超過していることを考慮すれば、それほど遠くない将来に需給バランスが崩れてくる可能性を、あらかじめ考えておく必要があると思われます。

   新型コロナウイルスの感染拡大が今後収束するか、それとも冬に向かって再拡大するのかによって、想定されるシナリオは大きく変わりますが、コロナ禍で継続してきた自粛によって経済活動が縮小し、景気の冷え込みはこれから本格化する可能性が高いと考えるべきです。

   そうなるとコロナ禍の直接的な影響とは別に、都心近郊に住み続けられなくなる人が増える可能性は高まりますから、住宅の売買、賃貸、投資など、あらゆる局面でコロナ禍の影響をどのように織り込んで経済活動を継続していくかを、この時期から考えておきたいものです。

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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