今週(2020年10月12日週)、正社員同様の賞与や退職金の支払いを求めていた非正規雇用労働者に対し、最高裁が「(待遇格差は)不合理とまでは言えない」との判断を相次いで下したことが話題となっている。
安倍政権以降、「同一労働同一賃金」は主要政策だっただけに、この判決をサプライズと考える人も多いようだ。だが、筆者は当初からこうなることは予想していた。おさらいも兼ねつつ、今後の企業人事がどう対応してくるかもまとめておこう。
参考リンク:「『同一労働同一賃金なら賃下げ』は本当か」(J-CASTニュース 会社ウォッチ2016年2月18日付)
企業は徹底して「区別」する
契約社員やパートは、その求人内容を見ても明らかなように「何の仕事をして時給をいくら受け取るか」が明示された職務給だ。
これに対し、日本企業で働く正社員のほとんどは「会社に言われた業務は何でも担当し、全国転勤も残業もこなしながら毎年少しずつ昇給していく賃金制度」で働いている。
だから、たとえば同じ職場にほとんど同じ仕事をしつつ契約社員の3倍の時給を受け取る正社員のオジサンがいたとしても、二人の時給を平準化しろとは言えない。オジサンはきっとこういって反論するだろう。
「自分は入社以来ずっと会社のために何でもやってきて、今はたまたまこの事務の仕事をしているだけです。給料が高いのは過去の年功に対するご褒美だから当然です」
今回は賞与や退職金がテーマだが、構造的な問題は同じである。判決もごちゃごちゃ書いてあるものの、要するに「一時的に同じ業務をこなすことがあっても、異動などの状況が異なるから不合理とは言えない」と示している。現状の枠組みを維持したままではこれが精いっぱいということだ。
とはいえ、判決は「実質的に正社員と同じなら待遇格差は不合理である」とも述べている。今後、企業人事は「正社員と同じ」と言われないよう、業務内容はもちろん異動や人材育成まで含めて正社員と非正規の棲み分けを徹底するはずだ。
長期間雇用しすぎると実質的に正社員と同じだと突っ込まれる恐れがあるため、雇用期間はより短く細切れになるだろう(すでに5年で無期転換というルールもある)。業務内容もより付加価値が低く、短期で人を入れ替えても影響のない業務に限定されるはずだ。
格差を是正するための規制が、格差をより強固なものにしてしまったというわけだ。