今回から、Withコロナ時代の住宅市況の変化について解説させていただくことになりました。まずは、コロナ発生から現在に至るまでの不動産業の動きを概説します。
振り返れば、2020年1月16日に国内初の新型コロナウイルスの感染者が発生して以降、東京、大阪など大都市圏の中心部での感染拡大によって4月7日に緊急事態宣言が発出される状況になりました。
この時は約1か月間の国内移動と経済活動の自粛実施によって、新規感染者は漸減傾向になりました。
戸数を減らした新築マンション、一戸建て
しかし、ゴールデンウイーク(GW)明けに緊急事態宣言が解除されると同時に、GoToトラベルキャンペーンが実施されるなど、我が国の経済が本格的な再開に向けて動き出したこともあり、再び感染者が増加し始めて7月下旬から8月上旬にかけて全国の新規感染者数が1500人を突破するなど、緊急事態宣言発出時よりも多くの感染者を出しました。
その後も経済活動の継続と感染予防策の実施という、相反する動きが継続しており、我々国民も日常に大きなストレスを抱えたまま生活する状況が続いています。
この間、感染防止策としては海外からの渡航者を事実上シャットアウトしたことから、インバウンド需要で拡大していたホテルや旅館などの観光業は、民泊施設も含めて甚大な打撃を被り、倒産や廃業が相次ぎました。これがGoToトラベルキャンペーンの実施に繋がり、「特定の産業のみを支援する政策は如何なものか」との指摘もありましたが、現在では東京都民および東京発着もキャンペーンの対象とされたことで、経済活動のプラス材料として徐々に機能し始めています。
また、住宅セクターでは特に新築マンションと新築戸建てが大きく戸数を減らしました。移動自粛によるモデルルームや展示場への来場者激減や見学完全予約制の実施。加えて、心理的な冷え込みや経済状況の先行きを憂慮して、大きな買物を控える動きなどが相俟って、たとえば首都圏の新築マンションの新規発売戸数は4月にはわずか686戸(前年同月比マイナス51.7%、不動産経済研究所調べ)に急減するなど、こちらも極めて大きな打撃を被りました。6月には1500戸程度まで戻しましたが、現状でも毎月2000戸に届かない供給実績に留まっています。
一方の中古住宅は、こちらも買い替え需要が落ち込んで市場への住宅供給が滞ったため、相応に需要はあるものの売り物の住宅が減ったことでマーケットが縮小する傾向にあります。
ただし、この傾向が顕著なのは、もっぱら東京・大阪などの大都市圏で、地方圏の各都市では感染拡大が概ね収まった6月以降は市場が再び活性化しており、コロナの感染状況によって地域ごとの市況に大きな違いが表れています。
コロナ禍で住宅が売れにくいから「価格が下がる」は誤りか?
こうなると、住宅価格の先行きも気になるところですが、現在のところ価格相場には新築も中古も大きな変化は認められません。というのも新築は売主であるマンション・デベロッパーやハウスメーカーが供給調整によって需要とのバランスを取っており、特に数多くの物件を市場に投下しているわけではないので、価格を下げなければ売れないという状況にはなっていないのです。
また、中古住宅の価格も市場に出てくる数が少なくなっていることから新築市場同様に需給バランスがタイトになり、結果的に価格が下落する局面には至っていません。むしろ、物件が少ないことで価格が上昇するエリアもあります。コロナ禍で住宅が売れにくくなっているから価格も下がっているはずだと考えるのは早計です。
ただし、コロナ禍の影響が今後、長期化することになれば状況は変わってきます。当然のことながら、先の需要を見越して開発用地を購入し、物件の供給計画を立てているマンション・デベロッパーやハウスメーカーも、景気低迷によって購入予定者が激減すれば、企業体力の小さいところが新築物件を順次値下げしてくる可能性はあります。
中古市場も住宅ローンが維持できなくなるケースが増えてくることが考えられますから、コロナの影響が長期化し、経済の先行きに不安材料が増え始めると、市場価格も弱含みに推移する可能性が出てきます。上場企業の1000社以上が業績の下方修正を余儀なくされている現状を踏まえれば、コロナ次第とはいえ、今後の住宅価格の弱含みについても想定しておくべきでしょう。
一方、賃貸住宅の賃料では、市場が動く春までの期間を終えていることもあって、大きな動きはなく、いずれの地域でも相場賃料が大きく変動しているといったことはありません。
ただし、こちらも筆者が所属するLIFULL HOME'Sの「借りて住みたい街ランキング緊急調査」では、賃借人の意向がやや郊外方面に向いているという結果が明らかですから、今後の推移は注意深く見守る必要があるでしょう。(中山登志朗)