再就職活動でうっかり「男」として採用試験を突破した女性が、大企業でエリート男性社員として活躍するドラマが話題になっている。小芝風花さん主演の社会派ラブコメディー「書類を男にしただけで」(TBS系、2020年10月11日放送)だ。
大企業に残る「男尊女卑」の実態と女性社員の生きづらさを、たまたま「男」になってしまったヒロインの目を通して、コミカルかつ痛快に描いた。
ネットでは働く女性たちから、
「私も一度は男として働いてみたくなった」
「ヒロインの差別を訴えるセリフの数々の涙が出た」
などの共感の声が起こっている。
「私も一度は男として働いてみたくなったよ」
このドラマは入社5年目という女性プロデューサーの中西真央さんが企画した。中西さんは番組ホームページで、こう語っている、
「エントリーシートを男で出していたら、私の人生もちょっと違ったかな。2年前に明らかになった医学部入試での女子に対する不正な減点のニュースを見ていて、ふとそう考えたのが企画のきっかけです。私は幼いころから多くの男子と一緒に遊ぶのが好きでしたが、どうにもならない違いがあるのは事実で、女の私が男のようには生きられない。日常の中にある男女の些細な違いから、許しがたい理不尽な違いまでを、誰かを傷つけたりすることなく、コメディーの力を借りて描けたらと思って生まれたのが今回のドラマです」
ネット上では、まずヒロインの祐希が「男」として入社する設定に共感する声が意外に多かった。
「もう半世紀近く前のことですが、性別を偽って就職していたとして、逮捕された女性が新聞記事に載っていたのをおぼろげながら覚えています。胸にさらしを巻いていたとかで、たぶん身分証の写真のような顔写真が載っていたのが印象に残っています。前をキッと見つめ、七三分けにした髪型、中年のおじさんのような風貌。ジェンダーに関する議論や記事を見るたびに、あの人のことを思い出します。あのころも教育上のタテマエは男女平等でしたが...」
「ドラマに共感した。就職活動の時、企業の情報をもらうのに自分の名前(私は女性)と父親の名前で応募したなあ。性別と名前以外は全部同じ内容で登録。父親の方に1か月近く早く資料が届き、その後も父親宛にだけ企業からダイレクトメールがバンバン届くけど、自分宛には全然こなかった。負けるものかと思うとともに、そういう企業には応募しないようにした」
ドラマでコミカルに描かれた「女性差別」の実態にも「あるある!」の声が。
「おもしろかった。毎回、差別と闘う内容を連続ドラマでやってほしい」
「単発なのが残念なくらい、共感できるセリフのオンパレードの素敵なドラマだった。私も一度は男として働いてみたくなったよ。本当に楽になれそう。主人公の『分かりやすいパワハラ、セクハラはなくなってきたけど、その分陰湿なハラスメントになっただけの気がする』という意味のセリフ(正確ではないけど)があったが、これは本当にその通りだなと思った」
「祐希が新入りなのに、男という理由だけで1年目からチーフになったよね。うちでもそういう例が多い。男のほうが、就活ホントにやったの? 面接ちゃんと受けたの? と疑問に思うほど無能な奴が多くない? それなのに早く偉くなる。若手の男だとオッサンも可愛がるからね」
問い合わせの電話で「男を出せ!」といわれる悔しさ
「祐希の上司の部長が、『女は若いうちが華だ』と、優秀なあやかを『女の子』扱いにしていた。私の会社にも『〇〇は製作可能か?』という問い合わせの電話がかかってきた。素材の性質上無理だったので『不可能です』ですと伝えると、『男を出せ!』とすごい剣幕。隣の上司に代わってもらい、同様に『不可能です』と伝えたら『わりました』だって。同じことしか言っていないのになんで? と上司と2人で首をかしげた。こんなことで女は仕事ができないとか思われたら堪らないよ」
「これは、ミソジニー(男性の女性に対する嫌悪)に対抗するドラマです。スッキリする部分もあったけど、自分のミソジニー的要素に気づいた部長がどう変わっていくかは見たかった。クライマックスの祐希のプレゼンシーンと(自分は女性だという)カミングアウトは女性にグサッと刺さるものあって、涙が止まりませんでした。本当に素敵な作品でした。もはやこんなお話は古いと思われるほどに男尊女卑の風潮が消えればいいなと思います」
「まさに履歴書の性別のところに間違って男にチェック入れちゃって受かったところから始まったドラマですね。男だと男なだけで得する、女だと女なだだけで損をする...が前面に出て分かりやすくまとめてくれた。爽快だった。短いけど丁寧に描かれていたから、ぜひ連ドラで見たかった。最近は、履歴書の性別のチェック欄がない会社も出てきた。男、女で固定概念がありすぎる。ドラマでも最後にチェック欄がなくなった終わり方がとてもよかった」
一方では、こんな「ツッコミ」の声もあったのは確かだ。
「まさに『書類を男にしただけで』地位と名誉を享受した祐希だが、同僚のあやかを通して女性社員が受ける不遇に直面する...... そこがドラマのキモでした。誰よりも本当は仕事ができるのに、男性社員に気を遣って一切自己主張をしない控えめなあやか。そんな彼女を『会社の華』と利用した挙句、30歳になるという理由で『女は若いうちが華だ』と切り捨てる部長。しかしねえ、あやか自身も今どきありえない女性像だし、こんな広告代理店も本当にあったら社会問題になる女性蔑視の会社だと思いますよ」
また、男性からはこんな意見が。
「今のご時世に沿った作品という感じですが、自分の周りには逆に活躍している女性が多いので、男の私も頑張らないといけないかなと」
(福田和郎)