70年前の長編小説「ペスト」が改めて読まれている理由【尾藤克之のオススメ】

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   超難解な小説の「ペスト」が、これ1冊で簡単にわかります。

   押さえておくべき代表的なシーンを、マンガ&あらすじで紹介。新型コロナ時代、何を考え、行動すべきか。フランスのノーベル文学賞作家、アルベール・カミュの代表作「ペスト」を読めた気になれる解説本。マンガ、あらすじ、著者の考察の組み合わせで、ストーリー全体、代表的なシーンを知ることができます。

「マンガ&あらすじでつかむ! 60分でわかる カミュの『ペスト』」(大竹稽著、羽鳥まめイラスト)あさ出版
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ペストの前にひざまずきなさい

   カミュの「ペスト」には、さまざまな立場の人間が、ペストをどのように捉えて向き合っていくかが書かれています。アルジェリアのオラン市の教会では祈祷をすることで、ペストに対抗することを決定します。

   そして、パヌルー神父にミサでの説教者の役が任されます。教会は「答え」の正当性を担保しうる最高の適任者を用意しなければいけませんでした。それがパヌルー神父でした。その日はあいにく、どしゃ降りの雨にもかかわらず、外にも聴衆があふれていました。

   神父の説教は、

「みなさん、あなたたちは災厄の中にいます。それは当然の報いなのです」

という痛烈な言葉から始まります。

   旧約聖書「出エジプト記」の記述を引用し、「災厄はおごれるものたちをひざまずかせるためにあります。このことを肝に銘じ、『神の災厄』の下にひざまずきなさい」と続けました。空気は静まり返っていました。聖堂の中の聴衆は一人、また一人とひざまずき始め、やがて、すべての聴衆がひざまずきました。

   「私はあなたたちを真理へと導きます。善意ではなく真理に服しなさい。神の慈悲は善と悪を、怒りと憐みを、ペストと救いをセットにしています」と説きます。しかし、この言葉には、本人もまだ気付いていない本質的な欠陥がありました。聴衆は理由がわからない罪を宣告されたからです。

   降りかかった災厄には意味があり、必然だと思わせました。人間を超えた存在が人間をこらしめ、償いとして与える苦しみがありました。言葉の持つ危険性をカミュは見事に押さえていました。さらに、その後、数か月が経過しても、ペスト禍からの収束にはほど遠いことが明らかでした。

尾藤 克之(びとう・かつゆき)
尾藤 克之(びとう・かつゆき)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員。
議員秘書、コンサル、IT系上場企業等の役員を経て、現在は障害者支援団体の「アスカ王国」を運営。複数のニュースサイトに投稿。著書は『最後まで読みたくなる最強の文章術』(ソシム)など19冊。アメーバブログ「コラム秘伝のタレ」も連載中。
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