外食チェーン大手「ワタミ」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で苦戦している居酒屋の4割を、段階的に焼き肉屋の業態に「衣替え」することを発表した。メインブランドだった「居酒屋 和民」などは2021年度末までに姿を消す。外食産業でも最も苦しんでいるとされる居酒屋。焼き肉の業態で「勝ち組」になるのはどうすればいいのか――。
ワタミが2020年10月5日に公表したプレスリリースによれば、「居酒屋 和民」や「座・和民」、「ミライザカ」、「鳥メロ」といった居酒屋チェーンのうち、120店を22年3月までに「焼肉の和民」に転換する。5日には東京都大田区に第1号店をオープンさせた。
渡邉会長、「生き残るためには変化を受け入れる」
ワタミのウェブサイトによれば、コロナ禍に伴う緊急事態宣言が出された2020年4月、ワタミの外食事業の売上高は前年同月比で92%減った。宣言の解除でやや回復したものの、7月以降の「第2波」で再び客足が遠のき、8月は前年同月比で63%減となった。
広報担当者によると、10月5日に記者会見した渡邉美樹会長は、今後も居酒屋の業態には70%しか客が戻らないとする予測を示したうえで、「来店目的が明確な焼き肉店は支持される。生き残るために変化を受け入れなくてはならない」と述べたという。
「焼肉の和民」では、新型コロナ対策と業務の効率化のため、人に代わって肉や料理を客席まで運ぶ配膳ロボットや「特急レーン」を導入。これにより、居酒屋の業態と比べて従業員と客との接触を8割減らせる。
広報担当者は取材に、「ロボットなどの導入で効率化したコストは原価に投入する」と述べた一方で、「従業員の雇用については維持する方向で検討している」と話した。
居酒屋業、「壊滅的な状況が続いている」
ワタミのみならず、居酒屋チェーンはどこもコロナ禍で大きなダメージを受けている。
外食産業の市場動向調査を毎月実施している一般社団法人日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査」によると、外食産業の中でも「居酒屋・パブ」の業態は、緊急事態宣言の発出中に出された自治体からの休業要請によって売り上げの落ち込みが激しく、その後の回復も鈍い。
4月に前年同月比で91%マイナスだった売上高は、宣言解除後の7月に前年同月比53%マイナスの水準まで、かろうじて「改善」。だが、7月以降の「第2波」による営業時間の短縮要請と会食の場でのクラスター発生の影響によって、再び来客数が減り、8月の売上高は前年同月比で59%マイナスと、「壊滅的な状況が続いている」。
中でも、都市部の繁華街の居酒屋に悪影響が出ているようだ。
「大手企業を中心に、社員同士などの飲み会を自粛するよう指示が出ているところが多いです。テレビで感染者が増えた、と報じられるたびに、予約のキャンセルが相次いでいます。秋に入っても、相変わらず厳しいですね」(東京・新橋の居酒屋店主)
倒産も増えている。帝国データバンクの調べによると、焼き鳥店などを含む「居酒屋」の倒産件数は2020年1~8月に130件に達した。8月時点で累計100件を超えたのは2000年以降で初めてで、このままのペースで推移すれば、2020年の居酒屋の倒産件数は過去20年の最多を更新することがほぼ確実になったという。
「周囲の飲食店の中でも客足の戻りがいいのは、焼き肉店やステーキ店、エスニック料理店など、お客さんが『これを食べに行きたい』という目的を持てる業態が多いですね。居酒屋のように『何でもあり』だと、今後は厳しいです」(東京・渋谷の居酒屋を7月に閉店した経営者)
「コロナ時代」のニーズに応えた焼き肉店とは
緊急事態宣言中の外出自粛要請で、「内食」や「中食」が主流となるなか、焼き肉屋は数少ない「お店でないと本格的なものは味わえない」業態の一つと言えよう。
高級店や格安店など数ある焼き肉店のスタイルでも、コロナ禍で勢いがあるのが「1人焼き肉」だ。
たとえば1人1台の無煙ロースターで心置きなく1人焼き肉が楽しめる「焼肉ライク」。宣言解除後も、ほぼ毎月新規店舗を開店している。繁華街にある店でも、食事時は行列していることが多い。
東京・新橋にある店に週最低2回は行くという会社員の女性(38)は、
「1人では行きにくかった焼き肉店を気兼ねなく楽しめるコンセプトが好きです。あと、2分30秒で客席すべての空気が入れ替わる換気システムを導入しているので安心です」
と話す。
郊外を中心に全国展開する「焼肉きんぐ」も好調だ。こちらも6月以降、新規開店が続く。売りは食べ放題だが、従来のビュッフェスタイルの食べ放題店とは異なり、客席に座りながらタッチパネルでオーダーすることで、肉や料理が運ばれてくる。ビュッフェ台周辺の「密」が避けられ、従業員との接触も少ないスタイルなのが受け入れられているようだ。
「焼肉ライク」や「焼肉きんぐ」は、同じ焼き肉チェーンでも、「コロナ時代」のニーズに合致するスタイルを、コロナ前から導入していたことが、結果的にユーザーに選ばれたようだ。