新型コロナウイルスの感染拡大で一気に加速したテレワーク。しかし、多くの企業でネットワークやITインフラの整備が、現状の業務フローに対応できず、相変わらず「ハンコ」一つのために出社するというバカげたことが起きている。
そんなケースが解消しないために、在宅勤務に踏み切れない企業も少なくない。ウィズコロナ時代の働き方のメインになるとされるテレワークだが、今後の普及拡大のテコになるのは、利用の自由度が高いクラウドサービスだ。
本書「図解まるわかり クラウドのしくみ」は、まだ多くの人にとってわからないことが多いクラウドについて詳しく解説。コロナ禍ではとくに、多くの働く人にとって必携といえる一冊になっている。
「図解まるわかり クラウドのしくみ」(西村泰洋著)翔泳社
オンデマンド動画、ドラレコも
新型コロナウイルスの感染が広まっていた当初は、パソコンとその周辺機器や通信環境などを社員個人に依存して、テレワークをスタートした企業が少なくなかった。こうしたにわか仕立てのテレワークでは、社員のリモートアクセス権が不十分で業務が滞ったり、外部からの社内ネットワーク接続が集中したりすることでITインフラへの負荷が増大するなどの課題が浮き彫りになった。
これらの課題はとりあえず応急処置でしのげたが、今後もテレワークから回帰した、以前のような出勤体制が主流になるとは考えにくく、テレワークやリモートアクセスの常態化に備えて、抜本的対策を取らなければならない。考えられるのは、自社システムの増強・拡張か、クラウドサービスの利用だ。
クラウド(クラウドファンディングのクラウドとは別)の用語そのものは、よく使われるようになっており、知らないという人は少ないだろう。だが、どういうものかとなると、ネットワーク上にあるストレージのように考えている人が多い。
クラウドは保存しておくだけではなく、保存してあるものを共有して利用することができる。DVDをパソコンや専用端末にセットして見ていた動画をオンデマンドで閲覧できるようになったのも「クラウドの貢献」。ドライブレコーダーが取得した映像をスマホで確認できることもクラウドがあればこそだ。
SaaS、PaaS、IaaSの3種類
クラウドの機能・特徴はそればかりではない。「クラウド」はクラウドコンピューティングの略称で「情報システム並びにサーバーやネットワークなどのIT資産をインターネット経由で利用する形態」。クラウドが登場してから、自社の中で情報システムを保有し、自社内の設備によって運用することをクラウドと区別して「オンプレミス」と呼ぶようになった。
オンプレミスでは社内にシステム管理者、運用担当者、外部メーカーの保守担当者が必要になるが、クラウドではシステム管理者だけでOK。もちろん業者とサービス契約をするので利用料が要るが、データ量が増え頻度が増しているシステム増強も容易などのメリットがある。
クラウドサービスは、その種類に応じてSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)に分類される。
SaaSはパソコンやサーバーに入れて使用するソフトウエアを利用できるサービス。企業に欠かせない業務システムはほぼすべてがSaaSでまかなえる。PaaSではシステム開発に必要な環境基盤(プラットフォーム)を調達でき、IaaSはサーバー機能(CPU、メインメモリ、ストレージなど)を利用できる。
SaaSには稟議申請のワークフローシステムもあり、これを利用すれば、テレワークのなか、「ハンコ出社」をする必要もなくなるという。
イメージを描きやすいよう「図解」に
本書の著者、西村泰洋さんは、富士通のフィールド・イノベーション本部ヘルスケアFI統括部長。デジタル技術を中心にさまざまなシステムとビジネスに携わった経歴を持ち、IT入門のウェブサイトでITの基本やトレンドの解説なども手掛けている。
本書では、クラウドコンピューティングの物理イメージを描きやすいよう「図解」にした。クラウド事業者のシステムが、企業や団体のシステムとは異なるほか、「技術・サービスともに進化しつつあるものの標準化やオープン化が進んでいる現実」を指摘。クラウドのサービスと技術の概要を理解できるようデザインされている。
本書でベースを会得したのちに、「クラウド事業者のウェブサイトや解説書、クリエイター向けのサイトなどに進み、実際の利用に備えることをオススメします」と、西村さんはいう。
「図解まるわかり クラウドのしくみ」
西村泰洋著
翔泳社
税別1680円