荻野目洋子さんといえば、「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」。歌って踊る、キラキラしたアイドルとして多くのファンを沸かせた。2017年、そんな大ヒット曲がリバイバルヒット。その3年後の夏。ウクレレの音色の、ゆる~く心地いい楽曲がNHKみんなのうたから流れてきた。「虫のつぶやき」。荻野目さんが自ら作詞、作曲を手がけ、歌っている。
新境地を拓いた、新しい荻野目洋子さんに新曲「虫のつぶやき」ができた背景や、日ごろの生活ぶりを聞いた。
「ダンシング・ヒーロー」の再ブーム、娘の受験と重なり超多忙に
―― デビューして2020年で36年になります。アイドル時代の多忙な時期を経て、ご結婚、出産・子育てを経験され、現在、家庭ではどのように過ごしていますか。
荻野目洋子さん「2001年に結婚し、2002~06年のあいだに3人の子どもを出産しました。長女を産んでから三女が産まれるまでの4年間は、完全に専業主婦で子育てに専念していたんです。その後は、子育て雑誌の取材を受けたり、80年代ブームの再来もあったりと、歌やイベントのお仕事があっても、子育てに支障のない範囲で引き受けてきました。本格的な復帰は、25周年ライブを開催した2009年ごろで、それからは定期的にライブなども開催してきました。
アイドル時代は歌やお芝居など忙しく過ごす日々でした。結婚してからは、『ダンシング・ヒーロー』の再ブームが起きた2017から18年が、家庭と仕事の両立がいちばん忙しかったですね。17年に長女の受験、18年は次女と三女の受験が重なり、なんとか時間をやりくりして切り抜けました。今年、長女が18歳になり、次女と三女もほとんど手がかからなくなりました。朝、子どもたちのお弁当を作って学校に送り出した後は、海外の仕事が多い夫が日本にいる時は、午前中一緒に過ごしてから仕事に出かけるなど、バランス良く日々過ごせています」
娘たちが気に入ってくれた「虫のつぶやき」
―― NHKのみんなのうたで「虫のつぶやき」という歌を作詞・作曲、さらにウクレレ演奏、歌まで担当されたそうですね。この歌が生まれたきっかけを教えてください。
荻野目さん「NHKのスタッフの方から、『みんなのうたで歌いませんか』というお話をいただいたのですが、細かいことは何も決まっていませんでした。じつは32年前にも『みんなのうた』で歌わせてもらいましたが、その時は作られた楽曲を歌うだけだったんです。今回は一から関われるということで、母になった想いや、子育て中に『みんなのうた』を見てきた体験を生かせたらと思い、『虫が好きなので、虫をテーマにした歌はどうでしょうか』と私のほうから提案しました。
曲作りに取りかかったら、大好きな虫への想いが膨らみすぎちゃって、ウクレレを片手に、まずメロディが浮かんで、同時に詞もできて......。勢いに乗って1日で曲ができあがっていました(笑)」
―― 作詞・作曲はどこで学ばれたのでしょうか。
荻野目さん「作詞や作曲をきちんと学んだことはありません。まったくの独学で、国内外のアーティストの楽曲を聞くなどしているうちに、ホントに自然とギターをはじめて......。そんな感じです。最近はウクレレにハマっていて。手が小さい女性には向いていますよ」
―― 虫好きはいつからなのでしょうか。お子様は荻野目さんの虫好きや「虫のつぶやき」を、どのように感じているのでしょう。
荻野目さん「物心ついた時から、虫が大好きでしたね。千葉の自然豊かな場所で育って、父がチョウチョの採集をしていて。家に図鑑があったので、外で虫を観察しては、家で図鑑を調べて過ごしていました。虫好きにはいろんなタイプがあると思いますが、私の場合は、虫の形や色が好きで、『こんな色が自然に作られるんだ』とか『なんでこんなにたくさん足があるんだろう』と、気持ち悪いというよりは繊細な造りや機能など、その生態のほうに神秘やロマンを感じていました。娘たちも虫は好きみたいで、田舎にいくと、よく捕まえて見せに来てくれます。
今は仕事を通じてだいぶ社交的になりましたが、幼い頃に虫を見ていた頃の自分は人見知りなタイプだったんです。虫の世界は弱肉強食で、弱いものは食べられてしまったり、少し触っただけでも弱ってしまったり。それを見て、『生きることは大変なんだな』と虫を通して人生についても学びました。今の子どもたちやお母さん世代も、虫がダメ、触れない、気持ち悪いと言う人が多いんですが、触ったり体験してみることで初めてわかることもありますよね。特に子どもたちには『虫はこんな風に生きているんだよ、こわくないんだよ』ということを伝えたいと思って、大好きな虫への想いを曲に込めました。娘たちも、今までのダンスナンバーやバラードと一風違ったこの曲を気に入ってくれているようです」
家族との暮らしの中から生まれる音楽を大切にしたい
―― 「働く女性」として、ご家庭での生活(家事や子育て)とお仕事との両立は、どのようにされているのでしょうか。ご家庭を持ったことで歌や、歌手としての荻野目さんご自身の生き方にどのような変化をもたらしたのでしょう。
荻野目さん「仕事を再開したときは、『独身時代の荻野目洋子』のやり方を引きずっていました。特に『ライブ前やテレビで歌う前は緊張感をもっていたい』と思っていて、家でも朝からピリピリしていたんです。主人や子供たちも『きょうのマミー、いつもと違うね』と心配してくれましたが、ある日、見かねた主人から『もっと自然体でやればいいのに」と言われてハッとしたんです。それまで作り上げてきたスタイルを、なかなか壊せなかったんですが、家庭のことは今まで通りやって、今の自分でできる形でベストを尽くせばいいんだという考えになりました。5、6年前の30周年ライブの時に、久しぶりに2時間のステージに立つことになって、さすがに『頭の中が真っ白になって歌詞を全部忘れたらどうするんだ?』と不安に思ったんですが、ファンの方たちの顔を見たらやっぱりちゃんとできたんです。
いろんな人に支えられて、今の自分があってステージに立てているんだ、自分一人じゃないんだということに、改めて気が付きました。以前は、プレッシャーに押しつぶされそうで、いつでも逃げだしたいというギリギリの状態でしたから。そういう意味では、今のほうが楽しんで仕事に向き合えるようになりましたね。
家族がいてくれることで、まず人間としての荻野目洋子の目標があって、そこで生まれてくる歌や音楽を大切にしていきたいと思うようになりました」
―― 今後の活動について、お聞かせください。
荻野目さん「作詞・作曲は続けていきたいですね。今、高齢の母親の面倒を私の兄弟姉妹4人で見ていますが、母への想いを歌にしたり、娘たちと話す中で10代の彼女たちがもっている悩みや思いに気づかされることもありますが、そうしたことを歌にできれば、違う形で悩んでいる人のヒントになるんじゃないかと思っています。現状は(コロナ禍で)なかなかライブの開催はままならない状況ですが、新しい形で、できれば生で歌を届けることを考えていきたいですね。
それとわたし、いつか新種の虫を発見して、自分の名前を付けることが夢です。それは実現したいなぁ(笑)」
(聞き手:戸川明美)
プロフィール
荻野目洋子(おぎのめ・ようこ)
1986年から89年まで、日本レコード大賞の金賞を4年連続で受賞。NHK紅白歌合戦に5回出場している。
デビュー25周年を迎えた2009年には、Anniversaryリリースとして、最新ベスト「ゴールデン☆ベスト」、新録アルバム「Songs & Voice」、25周年記念BOXセット「SUPER GROOVER The BOX -The Perfect Singles」をリリース。14年8月、デビュー30周年記念アルバム「ディア・ポップシンガー」をリリース。
千葉県出身、血液型はB型。夫と3人の娘との5人暮らし。
2020年8月リリースの「虫のつぶやき」は、配信限定シングル。「NHKみんなのうた」で聴くことができる。
「虫のつぶやき」 作詞・作曲、うた 荻野目洋子(ビクターエンタテインメント)
「虫のつぶやき」はこちらで配信中です。
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