まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」問題にいま、高い関心が寄せられている。
食品ロス削減推進法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が2019年10月に施行されたことで、10月は「食品ロス削減月間」、また10月30日は「食品ロス削減の日」と定められた。世界的なSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みと相俟って、このところ各企業や自治体を中心に、その対策には積極的だ。
そんな食品ロスの、国内外での課題は何か、そして私たちには何ができるのか――。食品ロスの問題に詳しい、ジャーナリストの崎田裕子さんに聞いた。
食品ロスの問題に詳しい崎田裕子さん。「食品の無駄な廃棄を事前に防ぐとともに、きちんと使い切る、食べきることがポイントです」
供給量に対して約3分の1は食品廃棄になる
―― まずは、食品ロスのどんなことが課題か、全体像を教えていただけますか。
崎田裕子さん「現在、世界で生産される食料の約3分の1が、食品廃棄物になっているといわれています。近い将来、温暖化の影響にともなう食料生産量の低下。一方では、世界人口の増加が予測されているだけに、食品廃棄物の量をいかに減らすかは喫緊の課題です。そうした背景から2015年の国連総会では、世界のリーダーたちによって、SDGs(持続可能な開発目標)と呼ばれる、2030年までに達成すべき17の目標が掲げられました。このうちSDGsの目標12-3では、明確に食品ロス・食料廃棄物の減少がうたわれています。それ以来、食品ロスの注目度はより高まったといえるでしょう」
―― 日本での状況はいかがでしょうか。
崎田さん「日本も世界の状況と同じく、供給量に対して約3分の1は食品廃棄物になっています。しかしここで問題なのは、日本の食料自給率は37%で、単純計算で63%が海外からの輸入です。それなのに、世界とほとんど変わらない割合の廃棄物を出してよいのか。日本は真剣に考えなくてはなりません。
農林水産省および環境省の2017(平成29)年度の推計によると、年間約2550万トンの食品廃棄物のうち、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品(食品ロス)の量は約612万トンでした。世界には健康に暮らせる栄養を摂れない方が8億人います。およそ9人に1人の割合です。国連の機関(国連世界食糧計画)の食糧援助量は2015年、年間約320万トンで、日本の食品ロスはその2倍近い量に相当します。その事実からも、私たちはもっと食を大切にしなければならないのです」
―― そのような世界的な動きの中で、日本では2019年に食品ロス削減推進法がスタートするとともに、事業者(企業)や自治体による食品ロス削減に向けた取り組みが加速していくのですね。
崎田さん「はい。法律に先立って、食品ロス削減に向けた数値目標も定まっています(食品ロスの削減目標は、食品関連事業者には『食品リサイクル法』で、家庭では『第四次循環基本計画』のもと、それぞれ2030年までに2000年比で半減させると設定)。こうした目標や約束事のもと、食品ロスの問題に対して、社会全体で、みんなで取り組むことが明確になりました」
―― 具体的にはいま、どんな取り組みが進んでいますか?
崎田さん「食品関連事業者のうち、流通にかかわる製造業、卸売業、小売業の関係者が熱心なのは、加工食品の納品や販売に関する『3分の1ルール』と呼ばれる商慣習の見直しです。これは、メーカーから消費者に届くまで、それぞれの過程の関係者の手元で、賞味期限の3分の1に収める、という仕組みです。
ここでは仮に、賞味期限が3か月の食品を例にして、このルールを説明すると、(1)メーカーが製造してから、卸および小売(スーパーなど)まで1か月以内に納品する。その後、(2)小売は消費者へ1か月以内に販売する。そして、(3)消費者は最低限、購入してから1か月の賞味期限が保証される、というわけです。
消費者がおいしく安全に食べられるようにと設けられたルールでしたが、とくに(1)や(2)の段階で、返品を含めて大量の廃棄につながっていたため、長らく課題であると意識されていました。いまこそ考え直してもよい時期ではないかと、納品までの期限を延長したり(2分の1ルールへの変更)、スーパーなどでも賞味期限が近いことを説明したうえで安く販売したりする動きが出ています」
冷蔵庫の管理、していますか?
―― 外食産業ではいかがでしょうか。
崎田さん「食品関連事業者の中でも、食品ロスの割合がどうしても高くなってしまうのが、外食産業です。ホテルやレストランなどでは調達した食材を使い切ろうと、天気予報から売上予測を立てるなどして、注意を払ってきました。しかし、無視できないのは、お客さんの食べ残し。店側から言いにくい事情もあって、悩みのタネでした。そこで最近では、小盛や食べきれる量のメニュー開発など工夫が見られます。また、消費者の自己責任にもとづき、食べきれなかった食事の持ち帰りを認める動きもあります。
居酒屋も積極的です。関連する話として、年末の忘年会・宴会は食べ残しが多くなりがちなのですが、それを減らそうと自治体とも連携して呼びかけています。たとえば、福井県の『宴会五箇条』や長野県松本市の『3010運動』では、宴会の最初の30分と最後の10分は食事に集中して、食べ残しを減らそうと促しています。この取り組みは各地に広まり、おもしろい調査結果もあります。京都市が2017(平成29)年、忘年会シーズンに『3010運動』を幹事が呼びかけるグループ(4件=59人)、そうでないグループ(3件=50人)で食べ残しの量が変わるか、検証しました。その結果、幹事が呼びかけたグループは、そうでないほうと比べると、食べ残しの量は約5分の1だった、というのです。
幹事の役割は大事だといえそうです。宴会のときは事前に、店側と幹事の間で何人が来て、お酒と食事のどちらが多くなりそうか、などを打ち合わせておくと、なおいいですね。私が以前取材したときにうかがった話では、店側が熱心にコミュニケーションをとると、評判がよくなって、リピーターや売上増にもつながるようです」
自治体担当者向けの研修会で講演する崎田裕子さん(提供:全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会)。
―― 家庭ではどんなことに取り組むべきですか?
崎田さん「一番大事なのは、冷蔵庫の管理。家庭の場合は、買ったのに使わないまま、食品を捨ててしまうことが多いからです。そのためにまずは、買い過ぎて食品を余らせないよう、必要なものをメモして買い物に行くといいですね。 スーパーなどで買い物するときはぜひ、棚の前から順にとってほしい。小さなことかもしれませんが、スーパーの関係者と話すと必ず挙がる課題です。消費者の知恵として、消費期限や賞味期限が長いものを選びがちですが、そうすると期限が近いものばかりが残り、廃棄するリスクが高まります。そればかりか棚も雑然として、あとから来た人は、なんとなく買いづらくなってしまう。店に対するマナーとして、ご理解いただきたいところです。
ちなみに、容器や袋に書かれている消費期限と賞味期限の違いをご存じですか? 消費期限は、期限が過ぎたら食べないほうがよく、お弁当やおにぎりなど、いたみやすいものに表示されています。これに対して、比較的長持ちする食品に記載されるのが、賞味期限。別名、味わい期限です。適切に保管していれば、期限が過ぎたら風味は落ちるものの、すぐに食べられなくなるわけではないのです。日付だけを見て捨ててしまう人は少なくないと思いますが、いったん味を確かめてみて。風味が落ちていたら、食品によっては料理に混ぜて使うといいと思います」
食品ロスの問題解決に向けて、幅広い視点やアイデアが必要
―― 買った食品はきちんと使い切ることも大事ですね。
崎田さん「そうですね。冷蔵庫の整理として、たとえば一週間の終わりに、秋や冬場だったら鍋物を、夏なら野菜炒めや焼きそばをつくったりするといいと思います。あとは、小麦粉も余りがちな食材ですので、お好み焼きもおススメです。
ご近所づきあいで、家庭菜園で作った野菜や果物をもらったけれど、食べきれなかった、という話もよく聞きます。そういう場合は、酢の物やジャムにして保存しておくのも、ひとつの手。ひと手間かけると、残り物はけっこう減っていくものです。それに、マジメな顔で『食品ロス削減だ!』と、かしこまって取り組むよりも、こうやって楽しみながらのほうが習慣化しやすいと思います。
また、最近では子育てしながら、共働きの家庭が増えています。働くお母さんに多いのは、子どもの食事や作り置きできるおかずを、休日の間に一気に作って冷凍庫に小分けにして保存しておくことです。そのとき、個包装できるタッパーやファスナー付きの小袋が活躍しますが、粘着テープメーカーのニチバンから出ている『ワザアリ(TM)テープ』もなかなかいいなと思っています。袋止めのテープとして使うだけでなく、テープの上に油性ペンで、料理を作った日付を書いておく。それをタッパーに貼って管理すれば、作り置きした料理を食べないまま捨てることを防げるでしょう」
ニチバンの「ワザアリ(TM)テープ」。手で簡単に切れるし、繰り返し貼って剥がせて使える。
―― さまざまな素材のテープを主力とするニチバンが、自社の技術を生かして開発した「ワザアリ(TM)テープ」の発売をきっかけに、食品ロスの問題に貢献していこうと考えています。
崎田さん「食品関連以外の会社が、食品ロスの問題に関心を寄せることは、すごく大事なことです。食品関連の会社がこの問題に取り組むのは、自社の経営にも関係しますから、必然ともいえるでしょう。しかし、ニチバンのような他業界の会社も関心を持つことではじめて、社会全体で食品ロスの問題に向き合うきっかけになっていく気がします。最近では、食品ロスを減らそうと、余り食材や料理を販売したい飲食店と、手に入れたいユーザーを募って双方を結ぶ(マッチングさせる)スマホアプリも出てきています。
自社の技術や特性を生かした、食品ロス削減に役立つ商品やサービスが増えれば、多くの人を巻き込んで社会の変化を生み、みんなの意識を変えていくと思います。また、さまざまな会社の視点やアイデアが、新たな解決策を提示する可能性もあるでしょう。そしてそれが、多くの人の暮らしに無理なく、当たり前に取り入れられるようになれば、食品ロスの問題解決がさらに進むのではないか、と期待しています」
※TMは商標です。
崎田 裕子(さきた・ゆうこ)
全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会 会長
1974年、立教大学社会学部卒業。11年間雑誌編集者を務めたのち、フリージャーナリストに。生活者の視点で社会を見つめ、近年は環境問題、特に「持続可能な社会・循環型社会づくり」を中心テーマに、講演・執筆活動に取り組む。環境省登録の環境カウンセラーとして、環境学習推進にも広く関わる。NPO法人新宿環境活動ネット代表理事。環境省「中央環境審議会」委員、資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会」委員、経済産業省「産業構造審議会」臨時委員等。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「街づくり・持続可能性委員会」委員。「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」会長