2025年に大阪で開催が予定されている国際博覧会「大阪・関西万博」。新型コロナウイルス感染症への対応の続く中で発表されたオフィシャルロゴは、インパクトあるデザインで、人々にとってはコロナ疲れの癒しにもなったようだ。
本書「大阪が日本を救う」は、万博が開かれる5年後にはコロナ対応の局面でも時代が新しくなり、大阪が万博を機に日本をけん引する役割を担う可能性を秘めていることをリポートした一冊。大阪はいまや「食いだおれの街」「お笑いの本場」ばかりじゃなく、日本経済のエンジン役を果たす存在という。
「大阪が日本を救う」(石川智久著)日経BP社
経済効果は1兆5000億円
著者の石川智久さんは日本総合研究所の上席主任研究員で、世界経済と関西経済の両方を分析・研究している。
その分析によると、世界経済はこれまで好調であったが、新興国が高齢化社会に入るなか、従前のような成長を確保することは難しくなっているという。しかし、大阪を中心とした関西エリアは、そんな世界とは逆で、日本全体に占めるGDPの割合は低下傾向が続いて厳しい時代にあったものの、いまや万博をはじめ開発計画が目白押しで、「おもしろい時代に入った」としている。
8月に行われたオフィシャルロゴの発表は、デザインのインパクトもあって大いに注目を集めた。松井一郎・大阪府知事や橋下徹・大阪市長(いずれも、当時)らが招致に乗り出したころは「維新の会が勝手なことを言っている」といった空気で、シラけた感じが強かったが、誘致決定(2018年11月)の半年くらい前から雰囲気が盛り上がり始めた。
経済波及効果が明らかになるにつれ、期待が高まり、世界がコロナに見舞われる中にあっては、本書のタイトルにあるように、救いとなるイベントと見なされている。
コロナ禍で延期となった東京オリンピック・パラリンピックの経済効果は約6000億円。「1か月間で6000億円というのは年率換算で約7兆円にのぼり、瞬間風速的にはかなり大きな経済効果をもたらすと考えられる」と著者。これに対し、万博開催期間中の経済効果は半年間で1兆5000億円。「瞬間風速的には負けるが、イベント単位の金額では東京オリパラよりも経済効果が大きい。東京都のGDPが約100兆円、大阪のGDP(国内総生産)が約40挑円、関西が約80兆円だ。こう考えると、万博で大騒ぎする大阪・関西人の気持ちがよくわかるのではないか」
本書では、1970年の大阪万博のほか、これまでの歴代の万博の経済効果をレビュー。なかには2000年のドイツ・ハノーバー万博のように、1200億円の赤字となった例もあるが、それでも1兆4000億円の効果があった。直近の2015年のイタリア・ミラノ万博では30億円の黒字で、経済効果は4兆2000億円だった。
イノベーションに好条件備える
経済の専門家らからも、歴史からみた万博の経済効果や、大阪を中心とした関西エリアが、現代の成長をめぐってキーとなるイノベーションを起こす可能性が高いことを指摘する声が寄せられており、挑戦に向かう糧になっている。
「もともと理系が強い地域であるが、特に最近のノーベル賞日本人受賞者は関西にゆかりのある人が多く、イノベーションの観点から関西は無視できない」
「これからのイノベーションは人口が多い地域で、かつさまざまな実証実験を行うため広大な空き地が必要となる。そういった意味で、万博会場となる夢洲(ゆめしま)は、大阪の都心に近いうえ、とても広い空き地だ。万博とコラボしてMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)やスマートシティ関係の実証実験をしたい」
万博会場はデジタルば実験地区として、ウエアラブルデバイスによる生体情報システム、地域通貨(万博トークン)、ブロックチェーンを使ったデータ経済圏の形成が計画されている。会場への交通手段として自動運転の路線バスの実用化に動き出している。
新型コロナウイルス感染症に対しても「大阪・関西は前向きに動いていると感じる」と著者。ワクチン研究では、大阪府は府内の大学や病院の運営法人と連携協定を締結。大阪大学発の製薬ベンチャー「アンジェス」という有力企業があり、2020年6月30日に国内初のワクチン治験を開始しているという。
著者は「大阪が新型コロナから世界を救うかもしれない」と、期待を寄せている。「万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』だ。感染症という人類共通の難題への対応について、万博が答えを出す可能性も高まっている」
新型コロナウイルスの影響で東京一極集中の「終わりの始まり」が指摘されるなか、大阪が東京と並ぶパワーを備えつつあることがリアルにわかる。
「大阪が日本を救う」
石川智久著
日経BP社
税別850円