ひと昔前は難しかった起業だが、ワークライフバランスの考え方の浸透や働き方の多様化が進んだ現代では、インターネットやテクノロジーの発達で国境を超えたビジネスでも、それほど多くの資金がなくてもトライできるようになってきた。株式会社を設立するのに必要な資本金の基準が下がり、「1円起業家」なんていうブームもあった。
とはいっても、先立つものがなければ始まらない。本書「スタートアップファイナンス 起業で失敗しない『おカネ』とのつき合い方」は、資金調達法や収支計画の作り方など、金をめぐることを中心に解説した起業指南書。ちょっとしたことで「天国と地獄」ほどの違いがあるというから、起業を考えている人には見逃せない一冊。
「スタートアップファイナンス 起業で失敗しない『おカネ』とのつき合い方」(加瀬洋著)秀和システム
ちょっとしたことで「天国と地獄」ほどの違い
著者の加瀬洋さんは、税理士法人の代表税理士。起業・創業での会計や税務、資金繰りなどでコンサルティングも行っている。起業については戦略コンサルタントの仕事も担っており、これまで1万2000人の起業家を育てた実績を持つ。
会社を作って事業をスタートするには、設立登記が最初の手続き。法務局に会社設立の届出をする。方法は2つ。「自分でする」か「司法書士・行政書士に依頼する」かだ。依頼するには費用がかかる。そこで、はじめが肝心とばかりに、自分でやろうとする人も少ないようだが、はじめだからこそよく考えたほうがよささそう。
法人設立の手続きでは、定款を電子作成にすると印紙税4万円が節約できる。司法書士・行政書士に依頼すると、この電子定款を用意してくれるので、登記にかかるコストがその分安くなる。
それならば、自分でする場合も電子定款でやればいいのではと考えるかもしれないが、そのための「設備」が必要で、10万円程度の費用が発生するという。
つまり、自分のためだけに設備を用意して電子定款で手続きしても節約どころか、逆に損してしまうのだ。
著者は、自分でやってみようという前向きの姿勢を評価しながら、「その時間や努力は、もっと事業展開に必要になることに向けるべき」とアドバイスする。
設立登記は一度で済むが、経営を進めていくうえでは、税金と会計の違いを理解や、報酬の決め方のベースなどを知っておかないと、とんでもない痛手になることがある。起業から経営には、会社勤務とは別次元の気構え必要なのだ。