新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした「コロナショック」。日本航空(JAL)やカネボウ、ダイエーなど、数々の企業再生に携わり「企業再建の達人」と呼ばれる冨山和彦さんは、このコロナショックが日本の経済社会モデルにとって、この30年間に訪れた危機のなかで最大級という。
そして、経営のプロである冨山さんが、企業に向けて、危機を乗り越えるための処方箋として提示したのが「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」だ。
「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」(冨山和彦著)文藝春秋
カイシャモデルはますます有効性を失う
「カイシャモデル」といわれる日本的な経営モデルは、1960年頃からの高度成長とともに形成、確立され、それを軸とした経済社会モデルがいまでも大きな位置を占めている。
バブルが崩壊した1990年頃からこのモデルは有効性を失いつつあったが、21世紀に入りコロナショックに直面し、経済危機に脆弱なモデルであることを証明しつつある、というのが本書の著者、冨山和彦さんの見方だ。
ただでさえも「グローバル化とデジタル・トランスフォーメーション(DX)が起こす破壊的イノベーション、産業アーキテクチャ(基本構造)の劇的な転換に適応できない」というのが日本産業界の現状。最大級の危機であるコロナショックを受け、DXはさらに加速することが予想され、グローバル化はサイバー空間で加速しながら、リアル空間ではローカル化が進むとみられる。「グローカル化」といえるような新モデルが現れ、「カイシャモデル」のような古いモデルはますます有効性を失うと指摘する。
ケータイとスマホでわかった時代遅れ
それまで日本の産業界の成長を支えてきた「カイシャモデル」が、その呪縛の作用で国際的競争力を失ったことを示したのは携帯電話やスマートフォンなどの通信機器をめぐってだ。
2000年代前半までは、日本の携帯電話サービスは、サービス面でも、端末機器のビジネスでも世界のトップ集団を走っていた。だが、2007年にアップルがiPhoneを発売。グーグルがアンロイドOSをリリースした時期から一気に劣勢になる。
この出来事は、ガラケーというプロダクトがスマートフォンというプロダクトに負けたと考えられがちだが、そうではないという。
スマホということでは、携帯ビジネス拡大の草創期の1996年、日本のバイオニアが世界初の製品を世に送り出していた。また、携帯端末のインターネット利用ということでは、1999年にNTTドコモがiモードで世界に先駆けてプラットフォームサービスを開始している。2000年には写真をメールでやり取りできる「写メール」も登場していた。
NTTを中心に、旧電電ファミリーのメーカーやパナソニック、ソニー、パイオニア、シャープといった技術力が高いエレクトロニクスメーカー群があって築いた世界的優位だったが、iPhoneとアンドロイドによる破壊的イノベーションにより、産業アーキテクチャを根こそぎ変えられてしまい、日本メーカーが戦ってきた競争の土俵そのものがなくなってしまったのだ。
日本では、研究開発コンソーシアムを国が支援して組成すると、関係企業が「護送船団方式」のようにそろって参入。同じ事業をやるのだが「かと言って日本的カイシャはそれぞれに独立的、排他的共同体生態系なので、一つの事業体ではやらない。それぞれ別個にほぼ同じことをやって、過当競争、低収益、国際競争力喪失という負けパターンを繰り返す」と指摘されている。
一刻も早くCX経営を始動せよ!
本書「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」では、冨山さんが代表取締役CEOを務める経営共創基盤のプロフェッショナル(従業員)200人の経験をベースに、日本企業のあり方の根幹にかかわる大変容であるCXをテーマに、目指すべき新しいモデル、新しいアーキテクチャを考察、そこに到達するためのリアルなプロセスを検討している。
「CXを微分すれば、それはすなわち個人としての働き方、生き方のトランスフォーメーションとなり、CXを積分すれば、それは社会や国家としてのトランスフォーメーションとなる」と著者。テクノロジーの進化、グローバル化で、どこでいつ破壊的イノベーションが起こるか予想できない現代、企業はそれに備えるために一刻も早いCX経営の始動が求められる。
「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」
冨山和彦著
文藝春秋
税別1500円