2020年1月に亡くなった米経済学者、クレイトン・クリステンセン氏の世界的ベストセラーに、「イノベーションのジレンマ」がある。
「イノベーションのジレンマ」とは、製品やサービスの改良を重ねて顧客満足の向上を果たしてきた大企業が、着眼点のユニークさなどでヒット商品・サービスを創出した企業に足をすくわれるケースのことだ。
本書「日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」は、米ハーバードビジネススクールでクリステンセン教授から指導を受けたことがある著者が、かつては世界の大企業の足をすくう側だった日本の企業が、いまではすっかり逆の立場になっていることを指摘し、再生のために必要なイノベーションを解説した一冊。事例を交えて、わかりやすく解説。「イノベーションとは何か」についても詳しく学べる。
「日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」(玉田俊平太著) 翔泳社
クリステンセン教授の理論を解説
「イノベーション」は20世紀初め、オーストリア生まれの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターが定義した概念。企業が行う不断のイノベーションが経済を変動させると唱えられた。
イノベーションという言葉はいまでもよく使われるが、その意味はというと共通認識は明確ではなく、1956年度の経済白書で「技術革新」という訳語があてられ、一般的にそういう意味だと理解されている。 著者は、新しいプロダクトのプロセスやアイデアがあるだけでは不十分で、それらが市場などで広く受け入れられ普及することと考えて、「創新普及」の訳語を提案している。
イノベーションについて、クリステンセン教授は「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があると解説。「持続的イノベーション」とは、著書「イノベーションのジレンマ」で、日本企業に足をすくわれる世界の大企業側が続けた取り組みのことであり、「破壊的イノベーション」はユニークさで商品やサービスのヒットを導き出すことだ。破壊的イノベーションにより市場を構築。その後は持続的イノベーションを怠りなくライバルを突き放す。その間に、新たな破壊的イノベーションを起こし、そして持続的イノベーションに......。これを繰り返して成長が維持される。
米GAFAはイノベーションを体現している代表的存在だ。
世界を驚かせたトヨタ、ソニーのかつての歩み
戦後、多くの日本企業は、欧米企業に追い付き追い越すことを目標に努力を重ね、さまざまな業界で、世界トップクラスの競争力を誇る存在になった。1950年代には繊維、60年代には鉄鋼、70年代にはテレビや自動車、80年代には半導体の分野で、日本企業は圧倒的な競争力を持ち輸出を伸ばした。
自動車では、トヨタ自動車が生産方式で破壊的イノベーションを遂げ、その生産性の高さが明らかになると世界を驚かせた。ソニーの前身、東京通信工業は、米通信会社AT&Tのベル研究所が開発したトランジスタを使って小型ラジオを開発。ラジオといえば真空管を使った「据え置き型」が主流だった時代に、一家に1台から1人に1台を実現し大成功を導いた。
トヨタ生産方式も、ソニーのトランジスタラジオも「イノベーションのジレンマ」のリアルケース。自動車の技術で先行していた米国をはじめとする各国のメーカーは「うまく作る方法」などは考えていなかった。真空管ラジオの売れ行きに満足している先行企業は、新技術であるトランジスタの素晴らしさを知ろうとせずに投資をしなかった。
トヨタやソニーのほか、少なくない数の日本の企業が、それぞれの業種で「市場の最上層」に登り詰めたが、その後は足をすくわれジレンマに陥るケースが多くなっている。
本書では、トヨタやソニーのほか、「破壊的イノベーター」を演じた日本企業の軌跡をたどり、次になぜ日本の優良企業が「破壊」の対象になってしまったのかを分析する。
そして、次代の「破壊的イノベーター」になるための「7つのステップ」を解説。この中では、基本戦略の立て方やアイデアを生み出すプロセスについての考え方、破壊的イノベーションを起こすための組織作りなどがテーマに掲げられ、具体的、実践的に論じられている。
「日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」
玉田俊平太著
翔泳社
税別2000円